少子高齢社会の日本では子育てや女性活躍は社会の関心事であり、さまざまな意見が投げかけられます。ここ静岡県浜松市には、子育て経験を生かして仕事も育児も楽しめる女性を増やしたいと事業を展開するベンチャー企業があります。今回は、ママのためのセミナー「育勉セミナー」を全国に広げることに挑戦している株式会社NOKIOOの小田木氏にインタビューさせて頂き、その理念と今後の事業展開についてお話を伺ってきました。
小田木 朝子 氏
静岡県牧之原市出身、京都産業大学卒業後に地元静岡へUターン就職。法人営業2社の転職を経て、株式会社NOKIOO創業メンバーとして参画。自身の子育てと就労の経験を活かした「ON-MOプロジェクト」事業の立ち上げ、2017年からは一般社団法人育勉普及協会を立ち上げ、子どもを持つ女性に学びの機会を提供し、全国へ広げる仕組みづくりを創造する。(中小企業診断士/1級販売士)
自らの経験を活かしたプロジェクトは、子育する女性に共通するもの
小澤:小田木さんが手がけているプロジェクトについて教えてください。
小田木:NOKIOOは創業7年目のITベンチャーです。私が担当する事業は2つ。1つは静岡県内で5,000人の子育てママのネットワーク・ON-MOプロジェクト(http://on-mo.jp/)を持つON-MO事業。子育て中の女性ばかり5人チームで、主に行政の「女性活躍」や「就労支援」に関わる事業を民間提案で受託しています。
そして、2017年からは一般社団法人育勉普及協会(http://ikuben.jp/)を設立し、女性の両立のための時間術や思考術を認定資格にするという新規事業にも並行して取り組んでいます。育勉(いくべん)は、「子育てしながら勉強する」という私たちの造語です。
これら事業のきっかけは、同僚のアイディアで「小田木さんと同じようなお母さんにセミナーをしてみなよ」と言われたことです。
小澤:第一子出産後に中小企業診断士を、第二子出産後に販売士の資格を取得したと伺いました。子育てをしながら難関資格に合格するのは並大抵の努力ではないですか?
小田木:チャレンジしたおかげで、子どもがいても何か目標を持って努力をすることが習慣になりました。その時間術やモチベーションを維持する思考術をコンテンツにしてはじめたのが、育勉セミナーです。
私は子どもを出産してから「すごい制約を負ってしまった」と感じていました。会社では同僚が残業しているのに自分は定時になったら帰らなければいけない、一方で働くことで子どもとの時間は限られる。会社にも子どもに対しても申し訳ない気持ちになっていました。
小澤:それは、働きながら出産・子育てをする女性の多くに当てはまる悩みではないでしょうか?
小田木:いろいろ悩みましたが、「仕事を辞める」という選択肢が自分にあったかというと無い。それなら「働くことで子どもに良い影響を与えられるような存在になろう」と仕事に向き合う姿勢が決まりました。覚悟が決まると、行動も変わりました。
働ける時間が短くなるならスキルを上げようと思い、資格の勉強をしました。また、子どものために楽しんで働こうと決めました。私の姿を見て「大人になることが楽しみ、早く私も社会に出て楽しい仕事を見つけたい。」と子どもに思ってもらえたら嬉しいです。
「いきいき」とは、人生を主体的に選んで行動すること
小澤:育勉普及協会の理念の中に「女性がいきいき生きることに貢献する」とあります。小田木さんの考える「いきいき」は具体的にどんな状態なんでしょうか?
小田木:女性に活躍してほしいのは外からの目線で、女性自身が幸福な状態は具体的にどんなことを指すのか?事業を進める中で、自分自身の経験も含めてたどり着いた答えが「子どもを持った母であることを楽しみながら自分の人生を主体的に生きる」ということです。人がどう生きたいかは一人一人価値観が違います。
小澤:「いきいきした女性」と聞くと、家事と育児を完璧にこなして仕事では部下や上司に褒められる完全無敵な人を思い浮かべる人が少なくないのではないでしょうか。
小田木:仕事一つとってもバリバリ働くことが「いきいき」である尺度を持つ人もいるし、家庭と仕事を両立しながら上手くバランスを取る状態が「いきいき」であると定義する人もいます。
もっと言うと、子どもが小学校に入るまでは自分で見たい人もいる。または、子どもが小さい頃から両立生活をしたい、それが自分の「いきいき」で子どもに対しての誠実な姿勢であると言う人もいます。
価値観の押し付けは今の時代に合わない気がします。一人一人が自分の生きたい姿をしっかり自覚して、その人生を主体的に自分で選んで生きることが「いきいき」であると定義つけました。
小澤:セミナーと聞くとロールモデルの成功体験を聞くイメージがありますが、育勉セミナーは「色々な価値観があっていい、自分で選択することが大切」という提案なのですね?
小田木:カリスマ講師が「私がこういう経験をしてきたからあなたたちもこうしたらいいのよ」というセミナーは、同じ価値観の一部の人にはウケても、その他の人はついて行けなくなってしまいます。
小澤:そして、ついて行けない人たちは新しいカリスマを求めてセミナーショッピングしてしまいます。では、全ての人に合ったセミナーは存在するのでしょうか?
小田木:結局、外に答えはなくて、自分の中にあるんです。自分はどう生きたいか、どんな状態が幸せかを自分で考えないと。
大事なのは、働いてもいなくても「子どもを大事にする」と言うのは自分がどう生きることなのか一人一人が自覚して、自分の選択を肯定できる状態です。結果として、子どもにとっても社会にとっても良い状態になります。
小澤:確かに「あなたの為に頑張っている」というお母さんが辛い顔をして働いていたら、子どもにとっても良くないですよね。答えは自分の中にあるはずなのに、他人の価値観に左右されて葛藤している女性も多いのではないでしょうか?
小田木:育勉セミナーは「キレイな字が書ける方法」のような表層的なスキルを教えるセミナーではありません。
マインドと言うと抽象的ですが、自己効力感や自分の価値観を否定しないという思考習慣と、不安や悩みを乗り越える行動術を、セミナーで身に着けてもらいます。
自発的に行動し、困難を乗り越えられる女性を全国に増やしたい
小澤:首都圏で育勉セミナーを提供するために行われたクラウドファンディングは支援総額1,600,000円以上でプロジェクトが成立しました。地元静岡県の外でも育勉セミナーを展開していけると感じた手ごたえはあったのでしょうか?
小田木:マーケティングではどういう女性を対象にするのかとセグメントしていきます。しかし、育勉セミナーはどんな女性が受けてもその人なりの答えが持って帰ることができるのが特徴です。あらゆる働き方、ライフステージにいる女性が対象です。
なぜそれができるのかというと、育勉セミナーでは教えないからです。講師はワークショップカリキュラムの進行に基づいて、受講者が自分で考えて答えが書き出せるように進行をするファシリテーターという位置づけです。
小澤:これまでのカリスマがいるセミナーとはガラリと価値観が変わり、新しい流れがあると感じました。
小田木:学校教育でも自分で考える力をつける流れに舵が切られていますよね。学習塾でサードウェーブだと言われているのは、教えない自主学習を支援する学習塾です。集合学習から個別指導、eラーニング、その次が自主学習支援。やはり教えられても自分自身で考えていないことは身に付かないと思いました。
育勉セミナーのワークショップの良いところは自分で考えて書くので、習慣として残りやすい。私たちは良い話を聞かせたいわけじゃなくて、そこに参加した結果、本人が行動を変えて欲しいのです。
小澤:最後に、NOKIOOは小田木さんにとってどのような場所でしょうか?
小田木:NOKIOOは社員のチャレンジを後押しする風土があります。ON-MO事業も育勉普及協会も自分一人で作ったという感覚はありません。NOKIOOのチャレンジを促す風土と、新しい価値を認めて伸ばしてくれるメンバーがいるからこそ、生まれた事業です。この環境を活かして、事業も自分自身もまだまだ成長させたいと思っています。
編集部コメント
自分の価値観を否定しない思考習慣と不安や悩みを書いて具体化し女性がいきいき働ける状態が重要だと強いメッセージを伝える小田木氏。今後、育勉セミナーを全国に展開していく予定です。