私たちの日常にはサービスロボットや人工知能(AI)がより身近な存在になってきており、教育現場でもITを利用した学習が進んでいます。今回は1995年の創業以来、教育関連ソフトを中心にシステム開発やソフトウェア制作をするIT企業である株式会社CAIメディア(本社:浜松市中区)の福地氏にIoT教育の展開についてお話を伺ってきました。
福地 三則 氏
1952年生まれ、鹿児島県出身。早稲田大学法学部卒業後、旅行会社勤務を経て学習塾講師に転職。塾講師として働く傍らコンピュータ用教育エデュテイメントソフトの開発を始め、1995年に 株式会社CAIメディアを設立し、代表取締役就任。子ども達が「自ら学び自ら考える力を養う」ために開発された学習教材「スモッカシリーズ」は教育ソフトに革命をもたらした。2003年に発売された音声認識対話型英会話ロボット「チャーピーチョコレート」は1万台を売り上げ、2017年に復活した人工知能(AI)対応のCharpyに注目が集まっている。
学習塾の現場から生まれた、より効果的な教育ソフト
ー 福地さんは株式会社CAIメディアを設立する以前、学習塾の講師をされていたんですよね。塾講師から起業家になるまでの経緯を教えていただけますか?
私は早稲田大学法学部卒業後、旅行会社に勤務していました。その後、浜松市で学習塾講師に転職をしました。浜松市の子ども達は競争をしなくてもYAMAHAやSUZUKIなど大手企業の就職先があります。そういう子ども達に向学心を持たせるのはとても難しく、自宅学習を習慣化するためにはどうしたらいいかと考えました。
当時は、任天堂から家庭用ゲーム機「ファミリーコンピュータ」が発売され、ゲームにはまる子どもたちが続出していました。そこからゲームの中に教育ソフトを組み込むことで、単語が分からないと敵を倒せない、歴史年号や数学の計算が解けないと次のステージに行けないなど、ゲームと教育が合体したソフトを作った方が良いと考えました。
しかし、当時はそのような教育ソフトを作る会社がなかったため、自分で作ってしまおうと1994年に教育ソフトの会社を立ち上げました。
ー 学習塾の講師として教育にたずさわる中で、子ども達の学習に課題感を持って起業されたということですね。
当初は浜松市内のソフト会社に企画を持ち込み、中学3年間で学ぶ英単語を敵を倒しながら学べるソフトを作ってくださいとお願いしました。ところが、ソフト制作の開発者が思う「面白くて効率的なソフト」と教育現場で使う子どもたちの思う面白いソフトは違ったのです。
ソフト会社に教育ソフトを2、3本制作してもらってから、良い物ができないと思い自分で書店に行きエンジニアの本を買って独学でソフトを作り始めました。
それを売り出してみたところ学習塾の先生から「今回は生徒が喜んで勉強する。何か作り方を変えたんですか?」と言われたので、じゃあ今後は自分で作ろうと決心して2年程で自社ソフトを作って売るようになりました。
最初2年間程は学習塾とソフト会社の両方で働いていました。その後、ソフト会社の方が忙しくなってきたので学習塾は辞めました。
日本人の英語学習に革命を、おうちに来た留学生Charpy(チャーピー)
ー 教育ソフト「スモッカシリーズ」の他にもソフトやシステムを開発されていますよね。
日本では教育ソフトだけでは会社は運営できません。何故なら制作費用に比べて売り上げが低いからです。その中でも比較的売れるのが英語関係のソフトでした。
日本人は英語を学ぶとき「読む」のはできますが発音発声がとても弱いことから、開発当初から音声認識のソフトは沢山作ってきました。
ー 当時は音声認識の英会話ソフトは先進的だったのではないでしょうか。
当時はパソコン上で動作するIBMの音声認識プログラムViaVoice(ビアボイス)を使っていました。ビアボイスは本当に使いにくい音声認識プログラムで世間に「音声認識は使えない」というイメージを与えてしまいました。
その結果、音声認識を使ったソフトは売れない流れになってしまい多くのソフト会社は一時的に音声認識を使ったソフトを捨ててしまいましたが、当社はしつこく作り続けました。
当時はCD-ROM形態でしたがそのうちにCD-ROMが売れなくなり、次は任天堂DSが出てきました。DSのソフトは制作費用が1500~2000万円はかかります。そこまで制作費用がかかっていたら大変だと困っていたところにiPhoneが出てきました。
当社の英単語学習のアプリを売り出してみたところ予想外に売れて驚きました。スマホのアプリはこんなに稼げるのかと、それからアプリの開発に切り替えました。
ー 開発の流れとしては、その時代に合ったデバイスに変えてソフトを制作して行ったということですね。
CD-ROMの画面学習だと最初は面白いと感じても操作が面倒で、また途中で飽きてしまう。このままだと日本人は英語をいつまでも覚えないと危機感がありました。
当時、ソニーさんが販売していたペットロボットAIBO(アイボ)が流行っていたので、アイボに英語を喋らせて勉強できるようになれば良いと考えました。
ただし、ソニーさんは巨大すぎて私達のような田舎の企業を相手にしないだろうと、じゃあ自分達でロボットを制作しようと動き出しました。
ー 教育ソフトやアプリに引き続き、ロボットも自作したんですか?
そうですね。第一号機がチャーピーです。
人工知能(AI)対応で生まれ変わったチャーピー
ー 2003年に発売された「チャーピーチョコレート」から、今年2017年の次世代版のチャーピー復活までに時間がかかっています。何か理由はあるのでしょうか?
チャーピーチョコレートは1万台を売って終わりました。その理由は、当時契約していた中国の工場がある日突然なくなってしまったんです。工場がなくなり、製品の金型も全てなくなった。
私たちはチャーピーチョコレートを2万台作ろうと計画していたので、材料を用意したら送り先がなくなってしまった。その後、当社は過渡期に入りとても英会話ロボットを作っているどころではなかったのです。
それから数年、チャーピーを復活したいと思っていたときに多方面から「チャーピーが欲しい。どこで売っているのか」という声が聞こえてきました。
ー 日本社会がサービスロボットやAIを受け入れだしてきた時代の背景もありますね。
チャーピーを復活させようかなと考えていた時に忘年会で中日新聞の記者に「来年、何か面白いことしないのですか?」と質問されて5つ企画を話しました。
その中にチャーピーの復活を出していたのですが、12月31日の朝に知り合いから電話がかかってきて「中日新聞の一面トップにチャーピー復活と出ているよ!」と知らせが来ました。新聞を見て「まずい!本当にやらないといかん。」と決意しました。
ただし、チャーピーの復活と言っても並大抵のことではないのです。前回はなかったwi-fiでクラウドにつなげる、カメラでユーザーの表情を認識ながら記録と照らし合わせて会話レベルを変えるなど、今回はIoT化に開発費用がかかる。
ー IoT化は開発費用が膨大に必要となるのではないでしょうか?
弱小企業ですから開発資金の8000万円を捻出できません。でも作りたい。株式会社浜名湖国際頭脳センターの社長に「共同開発しませんか?」と持ちかけて実現しました。
ところがIoT化する時に合うような既成の基盤がない。wi-fi、音声認識、スピーカー、各種センサー、カメラといった機能を持っていてかつスピードが欲しい。ゼロから開発をしました。
ー ゼロから開発をした次世代版チャーピーですが、パルコの運営する「BOOSTER」にてクラウドファンディングを実施されていました。クラウドファンディングは支援者に対するリターンによって、寄付型・金融型・購入型の3つに分類されています。今回、次世代版チャーピーのクラウドファンディングは資金集めの目的で行ったのでしょうか?
田舎の企業だと新商品を出しても、なかなか世間に知ってもらえません。クラウドファンディングのいいところは告知機能です。クラウドファンディングを行うことで商品を開発の段階から知ってもらうことができるのです。今回のクラウドファンディングは商品を先行予約という形で開始しました。
ー クラウドファンディングの支援金が1700万円以上も集まるプロダクトは少ないのではないでしょうか。
クラウドファンディングで有名な所は4000~5000万円を集めています。最初は大手のクラウドファンディング運営会社でを実施しようと考えていました。しかし、色々な所から声がかかりその中にパルコさんがいました。パルコさんがクラウドファンディングをやっているなんて知らないじゃないですか。
ー 確かに、初めて知りました。
あるテレビ局の方から「パルコさんでチャーピーのクラウドファンディングをやってくれないか」と言われました。じゃあ一度話でも聞いてみましょうかとなり、実際に会って話してみるとパルコさんがとても熱く語ってくれました。そこまで言ってくれるのであれば乗りますかと。
パルコさんだったら全国に店舗があるので、実際に店舗をまわってデモンストレーションができる。お客さんの反応を直に見ることができました。
ー クラウドファンディングは開始3分という驚異的な速さで目標金額800万円を達成されましたね。
クラウドファンディングは開始何分で売れるかが勝負と言われています。開始日にパルコさんでイベントをしてテレビ局も来ていました。蓋を開けたら開始3分で目標金額を達成してしまいテレビ局のアナウンサーから「感想は?」と聞かれて「ちょっとねー。」と驚きを隠せませんでした。
ー 今後はチャーピーの他にも教育プロダクトを展開していくのでしょうか?
時代はeラーニングだけではなく、ロボットが介在した学習になっていきます。ヨーロッパではロボットで行う数学の授業が成功しています。現在、日本でもその実験が行われています。チャーピーはまさに英会話の先生なんですね。これは国内でも先陣を切っています。
おそらく5年後にはロボットが当たり前のように授業をする社会になります。家庭や学校だけではなく、企業からもお問い合わせがあり、様々な場面で事業を展開していきたいと考えています。
編集部コメント
現在、日本ではサービスロボットやAIの実用化などロボットが身近な場面で活躍するようになりました。株式会社CAIメディアの展開するIoT教育に期待が高まります。