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ソフトウェアハウスの「一番星」を目指して|株式会社アスタワン 新規事業開発部長 新原 秀二 氏にインタビュー


ものづくりの街として知られる浜松では、工場の自動化に向けてIoTやAI技術の活用が進んでいます。日々進歩している技術は、自動運転車や無人運転車といった暮らしを向上させる新製品にも使われ始めています。
そんな浜松で、IT業界の一番星を目指して、印象的なチャレンジをしているソフトウェアハウス(※ソフトウェアを開発・販売する企業のこと)があります。株式会社アスタワン(本社:浜松市中区)の新原 秀二 新規事業開発部長に、最新の取り組みについて伺いました。

新原 秀二 氏|プロフィール

1980年生まれ、鹿児島県出身。電力ケーブルメーカーに就職し、茨城県日立市にあるシステム開発の部署に勤務する。東日本大震災をきっかけにフリーランスへ転向、海外でシステムの開発案件を請け負う。日本へ帰国する際に縁あって株式会社アスタワンと繋がり、就職。現在、同社にて、新規事業の創出に関するマーケティングや実証実験、事業化を執り行う。

目次

組み込み系のシステム開発が強み、ヤマハ株式会社を顧客に発展

▲企業パンフレットより:多様な表現と機能を持つ身近なシンボル「*(アスタリスク)」の原語の意味は小さな星。IT企業として小さくても明るく輝き出す星を“アスタワン”ASTERONEと命名。

菅原:まず、貴社の概要を教えてください。
新原:弊社は、代表の久米 幹夫が、2013年5月に創業したソフトウェアハウスです。久米自身もソフトウェア開発を手掛けてきた技術者で、前職で知り合った18〜19名ほどの仲間と一緒に立ち上げたそうです。
ソフトウェアの受託開発と技術者の派遣、そして自社商品の開発。この3つを事業ドメインとしています。
菅原:ソフトウェアハウスとしての、貴社の強みは何ですか?
新原:マイコンファームウェア(※)に関する開発技術です。パソコンやロボットをむき出しにしてみると基盤が入っているのが分かります。その基盤のピン(端子)を制御するソフトウェアの開発が、私たちがもっとも得意とする分野ですね。
近年のパソコンに入っているソフトウェアは、制御系に重点を置かなくても動作するものが主流になっています。その開発はもちろんのこと、進歩が著しいIoT分野においても、マイコンファームウェアからウェブサーバー、ウェブアプリケーションまでワンストップで制作します。
(※)マイコンファームウェア:電子機器に組み込まれたコンピュータシステム( ハードウェア)を制御するためのソフトウェア
菅原:ソフトウェアに関するすべての技術がないとできないような開発案件も、自社内で対応できるんですね。創業から、どのように成長してきたのでしょうか?
新原:ヤマハ株式会社さまを主要な取引先として発展し、現在は従業員数が28名となりました。営業も含めて、ほぼすべての従業員が技術職ですね。企業としては小さな規模ですが、ソフトウェアハウスとしてはそこそこの規模になるのではないかと思います。
菅原:東京にもオフィスがあるんですね。
新原:はい、サテライトオフィスとして機能しています。今のトレンドをキャッチしたり、さまざまなセミナーへ参加したり。技術者同士のコミュニティにも参加して、横の繋がりを広げています。

技術者から生まれる「おもしろいアイデア」を事業化する


菅原:2018年、創業6年目にして設置された新規事業開発部では、どのような取り組みを行っているのでしょうか?
新原:部の前身である新規事業開発推進室で、「ドリーム10(テン)」というプロジェクトを推進していました。社員に自由に使える予算を与えて、次の自社商品になるようなアイデアを発掘する狙いがありました。
菅原:「10」は、何を表した数字ですか?
新原:1人あたり10万円という予算のことです。ソフトウェアの技術者である社員自身が、興味のあるものを買って使ってみるなど、そこから新たなアイデアを得て、何か有益なことに繋げて自社商品に発展させたいという目的です。
そこから、しっかり自社商品の開発に取り組んでいこうと方針が固まったのが、2018年のことでした。
菅原:チャレンジできる社内の雰囲気があるようですね。
新原:そうですね。「こういうものがあったらおもしろい」というアイデアは、いつでも言える風土があります。興味があることに手を挙げたら、実際にやらせてもらえるような企業です。
菅原:そんな新規事業開発部で、今、一番力を入れている商品は何ですか?
新原:えほんクル」というサービスです。家に絵本が来る、という意味で「えほんクル」です。
菅原:キャッチーなネーミングですね。どのようなサービスなんですか?
新原:1冊あたり2万円で、オリジナルの絵本をウェブ上で作成して製本できるサービスです。プロのイラストレーターのイラストを自由に使えて、ストーリーを考えるだけで絵本がつくつくれるようにしています。絵本だけでなく、例えば自分の子どもを主役にした写真や思い出を使って、ストーリー仕立てのアルバムも簡単に作成できます。
菅原:どのような経緯で「えほんクル」を商品化したのですか?
新原:2013年に、ITを活用した絵本の事業を立ち上げました。そこでは、まずアプリ上で絵本がつくれて読める「えほんダス」(平成27年度の浜松市新産業補助事業)をリリースしたんです。
無料で提供していることもあり、さまざまな意見をいただきました。その中で、「つくった絵本は手元にほしい」という意見が非常に多くて。実際に絵本として届くところまでのサービスにしようと「えほんクル」を開発しました。
菅原:「えほんクル」上でイラストレーターが提供したイラストを自由に使えるのですね。「えほんクル」が、絵本のプラットフォームとして機能していくイメージが湧きます。
新原:SNSのようなコミュニティにしていきたいという考えもありますね。例えば、趣味で絵を描いている方のイラストを「えほんクル」上で使ってもらえれば、イラストレーターとしての露出度が上がります。
そのためにも、サービスの価格をもっと抑えていきたいですね。絵本の価格を簡単に安くできる機械を自社内でつくれないかと、考えを巡らせることもあります。
菅原:1つの商品ができあがったことで、さまざまな可能性が出ているのですね。
新原:いずれにしても、ありそうでなかったサービスにはなっていくと思います。

10年後も、最新の技術に携わっているような企業でありたい

▲左:久米 幹夫 代表取締役

菅原:新規事業への取り組みは、貴社の経営ビジョンから来ているものですか?
新原:そうですね、「エンジニアの夢を叶えて未来を創造する」が、弊社のビジョンです。進歩が激しい社会において、IT業界の最新技術に取り組むことで習得したスキルを、社会に役立てるという形で貢献できればと考えています。
菅原:社会貢献のあり方として、IoTを活用した面白い取り組みがあると聞きました。
新原:知的なごみ箱の「トラシオ」が、実証実験中です。「トラッシュ(ごみ)」と「IoT」を掛け合わせたネーミングで、ゴミが一定の容量を超えたら、スマートフォンから音で知らせてくれるシステムです。電池ひとつで動く構造なので、ごみ箱の上にマジックテープの部分を張るだけ、約1分で設置できます。
菅原:「トラシオ」は、どのように社会貢献しますか?
新原:商業施設における、業務負担を軽減したいと考えています。ごみ箱を見に行かなければ、内容量が分からないのは面倒ですよね。確認しにきた以上は、ごみを回収しなければならないし、手も洗わなければなりません。そのわずらわしさを解決できたらうれしいです。
菅原:どのように他社との差別化を図っていますか?
新原:IoT対応のごみ箱に関しては、すでに実証実験がされているものもあります。しかし、SIMカードを使ってインターネットと接続しているタイプがほとんどであり、ゴミ箱一体型が多いのです。システムというより、ごみ箱そのものを買ってもらう感じになるんですね。
「トラシオ」は、電池ひとつで動く装着型のシステムです。ゆくゆくは、この回路をプリント基板でつくることで半分ほどの大きさにできると考えています。
菅原:ごみ箱以外にも活用を見込んでいますか?
新原:そうですね、抽象化して考えると活用の幅が広いと思います。距離の計測や何かの接近を検知することが特徴で、温度や傾きも計測できます。例えば工場のラインのごみ箱や、原材料・資材などの増減の監視にも使っていただけます。

▲トラシオ(左)とえほんクル(右)のチラシ

菅原:新原さんの今後の目標は何でしょうか?
新原:世の中に認めてもらえる商品をいち早く仕上げ、売り上げを創出したいですね。そして、新規事業に関わる社員をもっと増やしていけらたと。
菅原:会社としての目標は?
新原:それについては、代表の久米からお話しします。
久米:弊社では、「エンジニアとは、何だろう?」ということを常に追求しているんです。果たして10年後に、社会がどうなっているかという予測は難しいです。しかし、技術は目の前で常に進歩しているので、最新のものに携わっていくことができます。
10年後も、そうした最新の技術に携われるようにスキルを高めていきたいですね。最新の技術に携われるのは、エンジニアにとって、とてもうれしいことでもありますから。
菅原:そのためにも、新規事業開発部は重要な機能を果たすのですね。
久米:まだ弊社にないスキルを新規事業開発部で研究したり、習得したりしています。なおかつ、「そうした取り組みから売り上げが立つような形にする」という重いミッションを新原には与えているということで。
菅原:部長の責任は重大ですね。
新原:珍しくて注目を浴びるアイデアであっても、それがビジネスになるかと考えると難しいですよね。ゼロからイチを生むのは大変ですが、だからこそ面白さややりがいを感じています。
久米:この先も、いつでも最新の技術や新しいことにチャレンジしている会社であり続けたいですね。絶えず、進歩し続けるというスタイルで。
新原:“浜松の一番星”でいたいですね。
久米:そこは、“世界の一番星”で頼みます(笑)。
菅原:今後の発展がますます楽しみになりました、ありがとうざいます。

編集部コメント

株式会社アスタワンは、おもしろいことや社会貢献に繋がるソフトウェアの開発という明確な目的を打ち出している企業でした。これからも、浜松の産業や暮らしをより快適なものに変えていく可能性を見せてくれるでしょう。

ライター|菅原 岬

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