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光が生み出す感動で、人々や業界を融合させる | パイフォトニクス株式会社池田代表にインタビュー


新技術を使った事業を行う企業が続々と現れるスタートアップ・ベンチャー業界。浜松にも、新技術を使って市場ニーズを発掘しながら事業を展開してきた企業があります。それが、パイフォトニクス株式会社。低い消費電力と高い安全性を持ち合わせ、明るく一直線の光を発生させることができるキューブ型のLED照明装置「ホロライト」を開発した、研究開発型のベンチャー企業です。代表の池田貴裕氏にお話を伺いました。

目次

池田貴裕 氏

和歌山県出身。徳島大学大学院 光応用工学専攻を修了後、浜松ホトニクス株式会社入社。その後、マサチューセッツ工科大学や光産業創成大学院大学での研究経験を経て、2006年に浜松でパイフォトニクス株式会社を設立。

研究者から起業家へ転身、ホロライトの発見

画像引用元:パイフォトニクス株式会社 HOLOLIGHTのページ

岩渕:池田さんはパイフォトニクス株式会社を設立する以前、光に関する研究を長らく行っていたようですね。研究者から起業家になるまでの経緯を教えていただけますか?
池田:私は徳島大学大学院で、当時新設された光応用工学科で光について専門的に学びました。大学4年生のころ、研究科の夏合宿で浜松ホトニクスの社員の方に出会ったことがきっかけで、2000年に浜松にやってきました。浜松ホトニクスの中央研究所で、ホログラフィーの技術を活用した研究開発を3年間行いました。その後、マサチューセッツ工科大学に派遣していただき、光学顕微鏡を使い、細胞を可視化して定量解析する研究を行っていました。
岩渕:顕微鏡ですか。起業前は、LED照明に関する研究がメインではなかったのですね。
池田:はい。アメリカから帰国し、2006年に光産業創成大学院大学に入学しました。この大学のカリキュラムは少し変わっていて、学生は自ら起業・実践して得た経験に基づいて、産業創成に必要となる知見に関する論文を作成します。入学から半年後の2006年10月、現在の会社であるパイフォトニクス株式会社を設立しました。当時は、細胞から情報を取り出して診断するといった、マサチューセッツ工科大学での研究に基づく顕微鏡事業を行っていました。顕微鏡事業は、その後のiPS細胞の研究からわかるように、当時から見ると将来的な市場規模は大きかったのですが、実際に事業として展開するのにはとても時間がかかると考えられていました。2〜3年で黒字化するのはかなり難しく、前職でやっていたことを自分が設立した会社で行うことにも、違和感を感じていました。
そんな時、ホログラム愛好家からの依頼でLEDライトを作りました。LEDとレンズを使用すると、遠くまで広がらずに光を飛ばすことができるのです。これが、現在メイン事業となっているホロライト技術の原点です。一直線に飛んでいく光を見て、「これはまだ世の中にないものだ。この技術を使って何か新しいことができないだろうか。きっと世の中の役に立つはずだ」と思い、このホロライト技術を成長させようと決意しました。

画像引用元:パイフォトニクス株式会社 HOLOLIGHTのページ

岩渕:それが現在のメイン製品であるホロライトとの出会いだったのですね。
池田:そうです。顕微鏡事業も継続していましたが、もっとたくさんの人に使ってもらえる製品作りがしたいと考えました。LEDが世の中に普及し始めたこともあり、ホロライトは製品化を非常に早いスピードで進めることができると考えました。顕微鏡とホロライト、両方の研究開発を進めながら事業としてどちらに力を入れるかを吟味し、最終的にはホロライト事業に力を入れることにしました。もともと起業した際と比べると、計画は変わっていますね。
私は研究開発をしていた人間なので、研究開発型のベンチャーでまだ世の中にない新しいものを作り、展示会で応用方法やニーズを見つけ、人と人の繋がりや新しい価値観を作っていこうと考えました。
岩渕:新しい技術を使った事業を伸ばして行く際に、苦労したことはありますか?
池田:最初は怖くてお金もあまり使えなかったし、プランというプランがあったわけでもありません。どちらかといえば、とてもスローにスタートアップしたと思っています。一般的なスタートアップやベンチャーは、短期集中的なビジネスプランやモデルがあり、お金を注力的に使い、2〜3年後にカーブを上げて行くものだと思います。
一方で私の場合は、まずお客様がどこにいるのかを発掘し、利益をあげ、展示会に参加してニーズを見つけたら、また開発して… そのサイクルの中で、市場が生まれてきたと感じました。今でも明確なビジネスモデルがあるとは言えませんが、日々新しいものを作りながらお客様のニーズを探し、仕事を生み出していくイメージを持っています。

光が生み出す感動で、人と人が繋がった瞬間


岩渕:ホロライト技術が世の中で役に立ったと実感する瞬間は、どんなときでしたか?
池田:2009年9月に、私の原点となる出来事がありました。浜名湖かんざんじ温泉観光協会からの依頼で、浜名湖パルパルから500メートルほど離れた向かい側の大草山を、ホロライトでライトアップするプロジェクトがありました。300台のライトを一斉に照らし、大草山を部分的にライトアップするプロジェクトです。見ていただいた関係者に、大変感動していただけました。
それまでは、まったく知らない業界の方々の中で、新しい技術を使って事業を行う私はどうしても浮いた存在のように感じていました。当時は社員も雇っておらず、一人で会社を経営していましたし、「私はここで何をすればいいのだろう?」と、大草山ライトアップのプロジェクトも手探り状態でした。しかし、結果的に素晴らしいプロジェクトとなり、光で感動を生み出すことができました。このプロジェクトをきっかけに多くの人にパイフォトニクスの存在を知っていただき、様々な企業の方とも繋がりを持つことができました。初めて社員を雇ったのも、そのイベント後のことでした。感動を通じると、人と人が仲良くなれると実感しました。

光技術で様々な業界を融合させたい

岩渕:パイフォトニクス株式会社の、今後の展開はどのようなものでしょうか?
池田:これまでホロライトの使い道は手探りで、展示会で製品を見たお客様に「こんな使い方をしたらいいのでは?」とお話をいただきながら、ニーズを探っていました。市場規模としては、ホロライトは幅広い分野に活用できると考えています。以前は様々な業界でニーズが分散されていましたが、今期は安全業界でのニーズが特に高くなっています。例えば、工場のフォークリフトにホロライトを設置し、人がフォークリフトに近付き過ぎないように注意喚起したり。また、2020年の東京オリンピックに向けて、演出用照明のニーズも高まって行くと思いますね。
岩渕:夜の海岸を幻想的に照らすプロジェクトも行っているそうですね。
池田:そうです。夜の海の波をライトアップするプロジェクト、「NIGHT WAVE」が大きな反響を呼び、プロジェクトメンバーと共同出資の形で会社も設立しました。まだ具体的な事業が進行しているわけではありませんが、まずは箱となる受け入れ体制をつくり、しっかりとビジネスプランを立ててシステム化することがこの1年の目標です。資金調達もして、短期成長を図りたいです。「NIGHT WAVE」は日本初の試みであり、今後は世界中のリゾート地に届けたいです。夜の海には人がほとんどいなくてシーンと静まり返っていますが、夜の海岸に人が集まるような新しい文化を作り、新技術や経済効果を発展させていきたいです。これは地方創生にも繋がりますね。
建築業界でも光技術は非常に市場規模が大きいです。パイフォトニクスの光技術を使えば、「光害(ひかりがい:過剰または不要な光による、生態系への悪影響やエネルギー浪費の一因となる公害のこと)」を最小限に抑えることができると考えています。安心・安全かつ面白い要素を含んだ、新しい建築用照明を文化として根付かせていきたいです。「光害」は世の中ではまだ認知されていませんが、先進国こそ注目し、対策をするべきだと考えています。「光害」への対策の必要性を、世の中に発信していきたいです。
光技術は様々な産業と密接に関係しているので、新たな使い方はどんどん出てくるでしょう。光は様々な業界を結びつけることができる、弊社の理念である「融合」にぴったりなアイテムです。これからも、光で色々な業界を融合させていきたいです。

「失敗できるまち 浜松」を起業家に発信したい


岩渕:池田さんは、浜松のスタートアップを活性化する取り組みにも力を入れているそうですね。詳しく教えていただけますか?
池田:浜松からスタートアップを育成する事業をやりたいと考えています。様々な価値観を持つ人々が集まり、業界や規模の垣根を超えられたらいいなと思っています。この地域には大企業や色々な業種の企業がありますが、どうしても垣根があると感じます。業界間の壁を取り除きたいと考えているので、同じ気持ちを持つ同志を集め、合宿形式でプランを発表したり、プランに対して投資ができるような、スタートアップの教育プログラムを行いたいですね。また、浜松を代表する「やらまいか有識者」を設置し、若い方々に学びや気づきを提供していただけたらと考えています。
岩渕:浜松からスタートアップやベンチャーを生み出す環境づくりを考えていらっしゃるのですね。
池田:そうですね。私は、プランに対して結果をしっかり出していただくことが大切だと考えています。ビジネスコンテストでも、賞金を獲得して終了ではなく、1年間プランに沿って取り組んできたことをしっかりと報告し、数字として結果を出すことが重要だと思います。
シリコンバレーでも、たくさんの起業家が失敗を経験します。でも、失敗してもいい環境があるから、投資家は投資するのです。浜松でも、失敗してもいいお金をつくり、起業経験をさせ、「失敗した」と実感させることも大切だと考えています。「浜松には失敗できるお金があり、チャレンジできる」と伝えられたら、東京方面からも起業したい人がやって来ると思いますし、それが地方創生にも繋がるのではないでしょうか。
岩渕:起業を志す若い層が浜松に集まり、スタートアップ文化が発展するといいですよね。
池田:そうですね。私たち自身も、ベンチャー的な取り組みとして「目的」と「手段」を意識しています。今やろうとしていることは「目的」なのか「手段」なのか。両者が逆になっている人も多いと感じます。短期的にビジネスを作り上げることが「目的」になっている会社もありますが、それはあくまでも「手段」にすぎないと、私は考えています。新しい世界を創るというビジョンを目的としてプランを作れば、人々は共感し、より良い世界に繋がると思っていますよ。

編集部コメント

「光を通して感動を生み出し、人と人を繋げたい」という池田さんのビジョンがとても印象的でした。誰かと美しいものを見ると、確かに共感が生まれて交流が深まりますよね。「失敗できる環境」をつくることも、起業家を後押しすることにおいてとても重要なポイントだと思いました。

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