2021年2月19日(金)、スタートアップ同士の交流拠点兼コワーキングスペースであるはままつトライアルオフィス(浜松市中区)にて「スタートアップの設立から初期のエクイティファイナンスの重要ポイント」セミナーがオンライン開催されました。
浜松市は認定VCと協調し、地域内スタートアップへハンズオンの支援を行う「ファンドサポート事業」を実施しています。認定VCの数は23となり(2020年9月1日時点)、2020年度には2億3,600万円を事業費交付金予算に盛り込みました。
地域内でスタートアップ投資の件数が増加する中、スタートアップやそれを支える士業側でも正しい資金調達の知識を持つ重要性が高まっています。そこで本セミナーでは、スタートアップ設立時や投資を受ける際の留意点が解説されました。
講師には、年間150件以上、調達額約190億円のエクイティファイナンス支援を行うaviators司法書士事務所代表の真下 幸宏 氏が登壇。スタートアップ創業者から学生起業家、士業まで、事業スケールや資金調達に関心を持つ19名が参加しました。本記事では当日の様子をレポートします。
セミナースケジュール
18:30〜19:30 真下 幸宏 氏 講義
19:30〜20:00 質疑応答、ディスカッション
登壇者プロフィール
真下 幸宏 氏|aviators司法書士事務所 代表、司法書士。大学卒業後、静岡県警察にて警察業務に従事。その後民間企業を経て、司法書士法人で商事法務に携わる。2014年に独立、現在はスタートアップの資金調達やM&A、株主総会の運営サポートをメインに年間150件超の支援を行っている。
スタートアップの設立からエクイティファイナンス初期における5つの重要ポイント
ことスタートアップにおける契約実務や法務は特殊性が高く、事業展開も速いことから専門の知識が求められます。資金調達の段階だけでなく、設立時から将来のリスクを見越して検討しなければいけないとのこと。とくに注意すべき点として、真下氏は5つのポイントを解説しました。
0.定款
1.創業者(株主)間契約の重要性
2.株式買戻しの落とし穴
3.社外協力者への株式やストックオプションの発行・譲渡
4.株主総会まわりの手続き
0.定款
定款とは、会社を運営していく上での基本的なルールを定めたもので、会社の設立時には必ず作成しなければいけない書面です。「会社の憲法」とも呼ばれる定款の内容は、スタートアップの実情に合わせて作らなければ、後々に不要な修正とコストが発生してしまうことがあります。
定款の具体的な注意点について、真下氏は次のように話しました。
「例えば、設立時に発行する株式の数に注意が必要です。1株1万円や5万円と定めて、資本金から割り算して株式数を算出することがありますが、数百株という株式数では少なすぎる場合があります。例えば設立時の株式数が100株だと1株が1%相当になってしまい、エクイティファイナンスやストックオプションの発行時に株式分割を検討しなければなりません。急いでファイナンスやストックオプションを発行しなけれならないような差し迫った状況下では、時間とコストのロスが発生します」
スタートアップには、創業者の入れ替わりや新株/ストックオプションの発行といった特有の事情が発生します。それらに備えて、定款に定めると良い項目が上記発行済株式数の論点のほか5点挙げられました。
1.創業者(株主)間契約の重要性
創業者(株主)間契約とは、主に創業者が退任するときの株の取り扱い方をあらかじめ決める目的で締結され、スタートアップ特有の契約となります。創業時の株主が退任する場合には、原則として、その保有株式すべてを会社に残る創業者や他の株主が“創業時の価格で”買い取れるようにすることが基本とのこと。
創業者(株主)間契約の詳細について真下氏は、以下のように説明しました。
「創業者(株主)間契約の締結は、創業者同士のトラブルを未然に防ぐ目的で非常に重要となります。弁護士に作成を依頼すると10万円~の費用がかかりますが、それだけの費用がかかったとしても弁護士の方に支援いただくのが賢明です。万が一トラブルに発展した場合は、最終的に弁護士を介した裁判となる可能性があるためです」
真下氏は上記の株式買取方法や買取価格以外に4点、スタートアップで起きやすいトラブルの事例から創業者(株主)間契約で留意すべき点を解説しました。
2.株式買戻しの落とし穴
株式買戻しの落とし穴として、高いvaluation(バリュエーション:企業価値評価)で資金調達を実施した後に株式買取をする際の税務論点があります。創業時は1株数百円だった株価も、エクイティファイナンス後には大きく跳ね上がることがほとんどです。その後に退任者から保有株を買い戻すと、株式の評価額と創業時価格との差額に対して贈与税が課税されてしまうことがあります。
このリスクについて真下氏は、
「資金調達後の株式買取は、必ず顧問税理士に相談して実施してください。また、エクイティファイナンスを優先株式で行った場合は、一概にエクイティファイナンス時の株価が、買取対象となる普通株式の株価とならないことがありますので、個別事情に応じて検討する必要があります」
と解説しました。
3.社外協力者への株式やストックオプションの発行・譲渡
スタートアップでは資金的な理由から、創業期にはフルコミットのメンバーを雇わず外部の協力を得ること(外部委託など)が多くあります。その際、給与や報酬の替わりに株やストックオプションを付与する場合がありますが、それは先々大きなリスクになる可能性があるとのこと。その理由を真下氏は、次のように解説しました。
「創業期の今、外部の方がとても助けてくださっているとしても、その方が将来どう自社に関わってくれるかわかりません。先々、株式を渡した方との人間関係が悪くなってしまうこともあります」
創業時に大きく貢献してくれた人であっても、将来にわたって高いパフォーマンスを発揮してもらえるとは限りません。そのため、株式やストックオプションを付与する際の割合については慎重にならければならないとのこと。
また、社外協力者へ株式やストックオプションを発行していることが資金調達の段階で問題視される場合があるそうです。
「一般的にストックオプションの発行は無制限に行えるものではありません。もし社外協力者の方に発行済株式総数の数%分ストックオプションを発行した場合、その分自社が自由に発行できるストックオプションが少なくなってしまうことがあります」
と真下氏。
また、創業期に投資家が数十%株式を保有してしまっているような状況では、その後の資金調達に支障をきたすことがあります。社外協力者への株式・ストックオプションの発行には、十分な注意が必要とのことです。
4.株主総会まわりの手続き
定時株主総会は年に1回必ず開かなければいけませんが、実施していない場合が多く見られます。定時株主総会以外に株主総会の開催が必要なシーンがさまざまあり、その都度議事録を残しておくことが重要になるそうです。
後戻りできないのが資本政策、我流での判断はハイリスク
セミナーの最後に、真下氏よりスタートアップのエクイティファイナンスについて総評がありました。
「起業家がご自身でインターネット検索して契約書類などを作成してしまったり、他の起業家からもらった雛形をそのまま使ってしまうケースが見受けられます。法務局も、スタートアップ関連の案件は全体数が少ないために業務経験に乏しいことがあります。
必ずしも『登記審査が通った=法的に問題無い』ではないため、重要論点の見落としがあるまま、起業家が独自に作成した書類が(登記を通ってしまい)後の大きなトラブルに繋がってしまうことがよくあります。
法律上は明文化されていなくても、上場審査やM&A(会社売却)時に“ダメ”と判断されることがあります。リスクヘッジのためにしっかりとリーガルフィーを払っているスタートアップは、そうでないスタートアップに比べて、その後順調に成長していることが多い印象です。とくにエクイティファイナンスを実行する際は、後戻りができないため、知見のある方に相談して進めるのが賢明です」
質疑応答・ディスカッション
講義後には、実際の起業やスタートアップ支援の経験を持つ参加者からさまざまな質問が寄せられました。投資家から見たスタートアップのあり方やスタートアップコミュニティに必要な支援や仕組み、浜松市で活用できる補助金などの話題が上がりました。
参加者からは、
「今日教わったリスクを知らずにいると、“時限爆弾”のように後々大きな問題に発展してしまうのが怖いと思いました。浜松のスタートアップコミュニティにおいても、トラブルの事例を何パターンも見てきた先輩起業家や士業がいると心強いなと思いました」
「(学生で起業して)会社を設立しないとわからないノウハウが多くあり、起業を目指す人はなるべく早く会社を作るのが良いと実感しました。例えば学生でも会社を興しやすいよう、会社設立費用やオフィスの賃貸費用など設立初期にかかる費用を助成する仕組みがあると助かります」といった感想が寄せられ、スタートアップ設立やエクイティファイナンスへの高い関心度が伺えました。
なお、本セミナーについては3月19日(金)にも域内士業向けの続編が開催される予定です。詳細発表と申し込み開始については、はままつトライアルオフィスFacebookページをご確認ください。