浜松では、シリコンバレーのような「起業の街」を目指し、ベンチャービジネスを興しやすい環境を整える「浜松バレー構想」が進んでいます。そんな中、起業のための第一歩として行われているのが、「Startup Weekend Hamamatsu」。
アイデアを形にする方法論を学び、金曜の夜から日曜の夜までの2.5日間にスタートアップで起きる新規事業開のリアルな体験を経験できるイベントです。
過去4回の開催からは既に、本イベントをキッカケに、参加者が実際に起業し、ベンチャー企業が生み出されています。そんなStartup Weekend Hamamatsuは、浜松のベンチャー環境にどのような影響を与えているのでしょうか。
そもそもStartup Weekendとは?
Startup Weekend(スタートアップ・ウィークエンド)は、全世界で4,500回以上開かれ、36万人以上が参加している、米・シアトル発のスタートアップ実践イベント。金曜日からの週末2.5日間を使い、参加者それぞれの関心や技能に基づいたアイデアを形にする、起業のファーストステップが体験できます。
初日は、ショートピッチとチームビルディングを実施。投票によってアイデアを絞り込み、アイデアに共感した参加者同士がチームを組んで、アイデアをビジネスにするために、仕組み作りを模索し始めます。
2日目は、ブレーンストーミングなどを通じてアイデアの議論を深め、コーチと呼ばれる相談役からの意見・アドバイスを通じて、アイデアをブラッシュアップ。
最終日に、チームごとに事業プレゼンを行い、優勝チームが選定されます。
本イベントに特別な参加資格はなく、誰でも参加できます。日本では、北海道から沖縄まで全国30以上の都市で開催されています。
Startup Weekend Hamamatsuを支える学生オーガナイザー
Startup Weekend Hamamatsuのオーガナイザーを務めるのは、静岡大学の学生を中心としたボランティアの方々です。その尽力により、第5回目の開催となる今回は、参加者の約半数を学生が占めています。
日頃からビジネスに触れている社会人と、柔軟な発想力を持つ学生。両者が関わり合うことで、互いにプラスの効果がもたらされているのは、浜松開催ならではの特色です。オーガナイザーのみなさんが、どのような思いを持ち、運営に携わっているのかを伺いました。
Startup Weekendは、浜松の学生と社会人を“斜め”につなぐ場
ーオーガナイザーをやろうと思ったきっかけを教えてください。
塩川さん:自ら進んでというより、ゼミの教授に声をかけられたことがきっかけです。
ーあまり乗り気ではなかったのでしょうか?
山岸さん:前回のオーガナイザーも学生(先輩)だったのですが、中心となるリーダーがとても人望のある方だったんですよ。
本郷さん:その方と自分を比べると、引け目を感じてしまって。
ー不安を感じながらも、オーガナイザーをやろうと決意したのは、なぜですか?
中山さん:前回参加したStartup Weekendを振り返ってみると、素晴らしいイベントだったからです。私たち学生は、普段は社会人の方とお話をする機会がほとんどありません。でも、このイベントを通じて、それが叶いました。
本郷さん:多くの学生は、就活を通じて、初めて社会人と関わりを持ちます。しかし、そのときには、面接官と応募者という「上下のある関係」になってしまいます。
大原さん:Startup Weekendでは、社会人の方と「斜めの関係」が築けるんですよ。ざっくばらんにお互いのことを話し合える、社会人のお兄さんができたような感覚です。
山岸さん:3日間のコミュニケーションを通じて、社会人としての振る舞いや仕事観を教えていただき、視野が広がりました。
本郷さん:社会人の方と良い関わりが持てるこういった場を、後輩にもつなげたい。そう思ったんです。
ー普段の学生生活では、なかなか経験できないことですね。
大原さん:そうですね。私が前回参加したのは、もともと起業に興味があり、アイデアを形にする方法を学びたかったからです。でも、最初から起業に興味のある学生は少ないんです。Startup Weekendは、社会人にとっても学生にとっても、起業に興味を持つ良い“きっかけ”になると思います。
ー浜松で、アントプレナーシップを持つ人を増やすためには、若いうちから「起業」にふれ、興味を持ってもらうことも重要ですね。
塩川さん:そうですね。特に、運営側として参加すると、起業についての興味が深まるだけでなく、さまざまな学びが得られます。
多様な価値観に触れ、見えてきたもの
ー実際にオーガナイザーをやってみて、どのような感想を持ちましたか?
塩川さん:準備が大変でした。
ー資料作りや会場設営ですか?
中山さん:いえ、営業活動です。コーチや審査員の方々を探してオファーしたり、集客したり。特に、集客には苦労しました。
ー集客も自分たちでというのは、確かに大変そうですね。そこで何か得られたものはありますか?
塩川さん:コーチのオファーをさせていただいたベンチャー企業の社長は、私たちがまだ学生という事もあり、損得勘定抜きでお話を聞かせてくださいました。
中山さん:ベンチャーの面白さや、仕事に対する情熱、それに人生訓とか。
塩川さん:とても刺激を受けましたね。
本郷さん:さまざまな価値観があることを学びました。私は、卒業後、進学でもなく就職でもなく、海外で自分を試す道を進むことにしました。
山岸さん:私は、相手の立場に立って話をできるようになったと思います。どう言えば相手に響くかを考えて案内をしないと、行動してもらえないことに気付きました。
ー営業活動が学びを得る機会となり、自分と向き合うことにもつながったのですね。
大原さん:途中、申込みをいただけなくて、諦めそうにもなりました。それでも声をかけ続けて、結果を見れば、前回より多くの方に集まっていただけました。くじけずにやって良かったと思います。
中山さん:このような経験を、学生のうちにさせていただけて、良かったと思います。
Startup Weekend Hamamatsuを身近な「はじめの一歩」に
山岸さん:やはり、学生が運営するスタイルは続いてほしいですね。
塩川さん:もっと多くの人にも起業体験に触れてほしいですし。
本郷さん:浜松には起業家を誘致しようという流れがありますが、Startup Weekend Hamamatsuは、そのコミュニティの入口となっています。
中山さん:本イベントを通じて、アントプレナーシップを持つ人が増えてくれると嬉しいです。
ー実際の起業に発展すれば、そこから「バレー構想」にもつながっていくでしょうね。
中山さん :はい。新たなサービスや商品を産み出す企業が増えることによって、浜松の経済や人の動きが活発になり、若者の流出や少子高齢化の解消が実現できるだろうと思います。
ー頼もしいですね。本イベントを通じて、みなさんが多くのことを吸収し、着実にステップアップされた様子が感じられました。お話を聞かせていただきありがとうございます。
Startup Weekend Hamamatsu第5回結果と参加者インタビュー
「シェア自転車で観光地を活性化」「失敗の共有で失敗のリスクを減らすQ&A」「みかん農家を救う獣害被害の解消プラン」「孫とラブラブ旅行」。第5回のStartup Weekend Hamamatsuでは、3日間のブラッシュアップを経て、ユニークなビジネスアイデアが出揃いました。
しかしながら、優勝者は該当なし。審査員のお一人として参加された堀 永乃氏は、以下のようにコメントしています。
過去にないくらい、白熱した議論を重ねました。非常に悩みましたが、残念ながら、今回は優勝者該当なしとさせていただきました。誰のための何の課題かということを、どこまで深堀りしたのかというところは、どのチームも十分ではなかったとい思います。そのようなこともあり、本回の最優秀賞を決めるという段において充分な評価ができませんでした。
Startup Weekendの意義は、ビジネスのアイデアをどうやって形にしていくかを学ぶところにあると思います。その中で、“検証”と“実践デザイン”は大事なことであり、私たち審査員も非常に重視しました。みなさんの人脈や経験を使い、懸命に検証しようとしたこと、ニーズや課題を聴くということは、これまでの人生にはあまりなかった機会だと思います。
Startup Weekendにチャレンジしようと思ったこと、特に大学生のみなさんは、学生生活の中で、このように熱い3日間を過ごす機会は貴重だったことでしょう。チャレンジしようという決意と、この3日間の活動をやりきったその勇気を称え、そのマインドに最優秀賞を贈りたいと思います。
「シェア自転車で観光地を活性化」参加者インタビュー
―どのようなきっかけで本イベントに参加されましたか?
参加者:静岡有数の観光地である、舘山寺温泉を自社サービスで活性化したいと思ったことがきっかけです。
舘山寺温泉は、浜松西部、浜名湖沿いにある温泉街です。静岡県の中では、修善寺と並び、観光客が多い名所となっています。ですが、最盛期より観光客の数は減っています。これに対し、ワークショップを開き顧客の声を聴くなど、温泉街が動き初めているのが最近です。
―どのような課題があるとお考えですか?
参加者:人の流動化を高めるべきだと感じました。舘山寺は、どの年齢の方も楽しめる温泉街なのです。名所のみならず、動物園や遊園地などの施設も充実しています。
ですが、周遊するコースがなく、道を歩いている人がいないのです。そこで、シェア自転車を走らせることで、気軽に周遊をしていただく仕組みを作れたらと考えました。
見込み顧客や現場のリサーチが出来たので、それを踏まえて次のステップを考えたいと思います。考えていたビジネスが先へ進むというよりは、次へ進むための手掛かりが見つかったという感覚ですね。
―3日間を終えた感想を教えてください。
参加者:辛かった、というのが正直な感想です。フィールドワークに出たり、想定顧客にインタビューをするといった作業は、普段しない活動だけに大変でした。
ですが、終わってみれば、その大変だった作業にこそ意味があるのだという事に気付きます。顧客の声を聴くという「検証」はファーストステップであり、かつ大切な作業でもあるんです。
―「検証」から、何が得られましたか?
参加者:顧客となりうる人のニーズを聴くということの大切さを痛感しました。その人たちが、本当は何を必要としているのかは、聞いてみないと分からないんですよね。
ですが、アイデアが思いつくと、そこに愛着が沸くのです。どうしても「このアイデアを実現するには?」という考え方にはまり込んでしまい、検証にバイアスがかかるという経験もしました。
―参加して良かったですか?
参加者:起業の苦労が身に染みて分かりました。自分の現状が知れたという意味でも、参加して本当によかったです。
Startup Weekendに背中を押され起業|モリロボ 森 啓史 社長
Startup Weekend Hamamatsuでは、過去優勝者の中から創業者も輩出した実績もあり、「スタートアップの登竜門」という位置付けが定着しつつあります。本イベントをきっかけに起業を決意した、株式会社モリロボ代表の森 啓史氏からコメントをいただきました。
私には、「浜松を調理ロボの街に」という夢があります。ですが、起業しようかずっと迷っていました。
そんなとき、背中を押してくれたのが、Startup Weekendです。それまでの私は、大企業の一技術者。外の世界に飛び出すのは怖く、もし起業で失敗したらそれこそ人生が終わりになるんじゃないかとさえ思っていました。ですが、昨年の3月。Startup Weekendに参加をし、先輩起業家に背中を押してもらったのです。「起業は、賭け事でやっている訳じゃない。勝機があるから打ち出すし、万が一失敗したとしても、うまくいかなかった方法が分かっただけ。人生を全て捨てる訳でもないし、ましてや命がなくなる訳じゃないよ」と。
さらに、審査員のみなさまからの評価に加えて、ゲストで来ていた鈴木康友・浜松市長からも強く背中を押されました。ここでチャレンジしなければ、自分の実現したいことは一生できないだろうと思い、Startup Weekendの翌月に会社を興しました。ちなみに、この春迎えたモリロボ初の新入社員は、昨年のStartup Weekendで同じグループを組んでくれた学生さんです。国立大学卒業の非常に優秀な学生さんで、大手企業からも引く手あまたの人材です。そんな人材に出会う機会も得られたので、Startup Weekendに参加してよかったと実感しています。
モリロボの目標は、作りたいものを作れる環境を創出することです。そういった意味では、今はまだ、モノができた段階です。自分が先に起業して成功することで、色んな方が後からついてきたいと思えるような「希望」となりたいです。また、後に続く方々を見て、自分も励みになります。浜松の起業家のみなさんとは、共に頑張っていけたらと思います。
編集部コメント
人口80万超の政令指定都市であり、全国で2番目に広大なこの街には、たくさんの可能性があります。かつてその浜松の可能性を広げたのは、ヤマハやスズキ、ホンダ、河合楽器に代表される志高い地元の創業者。彼らのアントレプレナーシップのルーツは旧制浜松高等工業学校(静岡大学工学部の前身)にあるとされ、今回のStartup Weekend Hamamatsuが静岡大学との共催体制に至ったのも、このような背景があったからです。
どこかの偉い誰かではないと起業ができないという訳ではなく、“自分の中に眠るアイデア”が事業となる可能性を持っているのです。そして、それを支える仕組みや先輩方が、この浜松にはいます。何かアイデアのある方はもちろん、それを見つけたい方も、ぜひStartup Weekend Hamamatsuに参加してみてください。良い刺激となるでしょう。