地域に新産業を創出!電磁誘導加熱装置「MAGHEAT®」の製販事業化|TSK株式会社 窪野 茂 専務取締役にインタビュー

投稿者 | 2019-01-18


2015年に発効したパリ協定にもとづき、わが国は、2030年度までにCO2排出量を26%削減する(2013年度比)という目標を提示しています。CO2排出量の大きな割合を占める産業部門では、とりわけ製造業において対策が急がれています。

そんな中、自動車業界で伸びゆくアルミニウムの加工過程に着目し、火を使用しない加熱装置を商品化した企業がありました。本装置の自社生産が進むことで、地域に大きく貢献する事業が創出できるとのこと。TSK株式会社(本社:静岡県袋井市)窪野 茂 専務取締役にお話を伺いました。

窪野 茂 氏|プロフィール

静岡県袋井市出身。大学卒業後、愛知県の大学にて事務職に携わる。ITをはじめとする教授陣との交流により知見を深めたのちに退職。TSK株式会社にて、海外との取引や事業に携わる。2014年、専務取締役に就任。電磁誘導加熱装置のMAGHEAT®の開発と商品化に尽力している。

西遠地区におけるメーカーのニーズに応えてきた商社「TSK」

菅原:まず、貴社の事業内容を教えてください。

窪野:当社は、「新技術のマーケティング」をコンセプトとする貿易商社です。ヤマハ株式会社で、高性能な金属素材の開拓・販売、FA事業に携わった私の父が、2002年に設立しました。世界中に散在する最先端技術でお客さまの抱える問題を解決することを我々のミッションとしてきました。

菅原:創業からどのように発展してきましたか?

窪野:創業初期は、アメリカのシリコンバレーのソフトウェアや新技術を現地で直接交渉して、日本の企業さまに紹介していました。どちらかというと、商材ありきのビジネスでしたね。

菅原:営業力で開拓していた時期だったのですね。

窪野:そこから、地元企業さまのニーズに沿って貢献していくスタイルになりました。西遠地区は、ヤマハやヤマハ発動機、本田技研工業といった輸送機器のメーカーに、大塚製薬やPOLAといった大手メーカーの工場が多いエリアなので。

お客さまから「こういう製品を探してほしい」とオーダーをいただくようになり、だんだんと商社的な機能になっていったというのが、弊社の沿革ですね。

菅原:大学の事務職から、どのような想いがあって転身を決めたのでしょうか?

窪野:海外との貿易に憧れがありました。2006年にTSKに参画し、事業を手伝うことにしました。ちょうど、カメラのフレームや携帯電話の部品にマグネシウムが多用された時期で。原材料を輸入したり、メーカーの要求するクオリティーと中国での製造クオリティーが合うかを検証したり。原料産出地の中国の山奥へ赴いては、製造工程を把握したり、不良の発生源をローカルスタッフと一緒になって考えたり、当時は徹底的に現地に入り込んでましたね。

菅原:商社として、順風満帆に発展されてきたように思います。そんな中、自社開発された「MAGHEAT®」が注目を集めています。メーカーへの一歩を踏み出したのには、どのような背景があったのですか?

窪野:商社というマージンで成り立つビジネスから、経営基盤を強化したいとの考えがありました。そこで、大々的に開発したのがMAGHEAT®だったんです。

CO2を大幅に削減、火を使わないアルミの加熱装置を独自に開発

菅原:MAGHEAT®とは、どのような商材でしょうか?

窪野:MAGHEAT®は、永久磁石の電磁誘導の原理を使い、導体(アルミニウム[以下:アルミ]などの非鉄金属)に電気を流し、その内部抵抗から発生する熱を利用した加熱装置です。バーナーを用いて火炎で加熱している現状の方式から火を使わない方式に移行することで、CO2の排出量の大幅な削減を可能としました。

菅原:夢のような装置ですね、基本構造を教えていただけますか?

窪野:磁石を埋め込んだ円盤を回転させアルミに近づけると電磁誘導が起こり、アルミの内部抵抗で自己発熱する構造です。コイルに磁石をすばやく近づけたり離したりすると、電流が発生するのが電磁誘導の原理。さらに、電流が導体に流れる際の内部抵抗により熱(ジュール熱)が発生します。そのジュール熱を利用して、自己発熱させるのです。MAGHEAT®で、5㎏程度のアルミインゴット(塊)を約3分で500℃まで加熱することができます。

菅原:独自で製品化できた、大きな要因は何ですか?開発秘話を聞かせてください。

窪野:弊社の技術部長に「磁石の権威」と言われた方が参画していました。彼が、常々言うんです。「磁力は、いつまでも枯渇することがない不思議なエネルギー。これをうまく応用すれば、世の中にもっと貢献する製品ができる」と。

あるとき、磁石でアルミや銅を温められるという話を聞きました。すぐに使っていない扇風機を持ち出し、本当に温まるのか実験をしたんです。羽を切った箇所に磁石をつけて回してみたところ、近づけた1円玉(アルミ材質)が手で感じられるくらい暖かくなったんです。そこで、火を使わない加熱装置を作れないかという発想に至ったのです。

▲TSK社、ホームページより引用

菅原:小さな実験から、事業化できると確信を得たのはどのような着眼点ですか?

窪野:自動車が軽量化される中で、鉄に代わる材料としてのアルミの需要は、この30年間右肩上がりです(※1)。それから、各メーカーは、環境対策を求められるようになりました。トヨタ自動車は、「環境チャレンジ」を掲げ、2050年までにライフサイクル全体でCO2の排出ゼロを目指すとも公表しています。

菅原:製品になるまでには、どのようなご苦労があったでしょうか?

窪野:構想から設計、装置化に3年ほどかかったでしょうか。適切な磁石の配列を見つけ出すのには苦労をしました。実用化後には、日本と台湾、中国で特許を取得しました。PCT(※2)にも出願を申請中です。ゆくゆくは、世界の自動車業界へMAGHEAT®を普及していきたいと考えていますが、まずは、東海地区の自動車業界での普及を狙っています。

菅原:マーケティングに関しても、静岡県の西部地区に根差してきた貴社独自の視点があるように思います。自動車業界をターゲットとする理由をお聞かせください。

窪野:まず、アルミの用途を考えると、自動車に使われることが圧倒的に多いです。車体の軽量化が加速する中で、全世界のアルミの市場は、ここ30年間ずっと右肩上がり。市場規模は10兆円を超えて、まだ伸び続けるとされています(※3)。

菅原:そのうえで、なぜ、静岡県の西部を拠点に考えていらっしゃるのですか?

窪野:静岡県の西部地区は、自動車や二輪というのは大きな産業拠点ですからね。愛知県の三河地区から菊川市(静岡県)にかけて、自動車産業に起因した企業が非常に多いです。ビッグ3のTOYOTAにも近い。そこへ、いち早く貢献したいという気持ちが強いです。

しかし、その全てに貢献することは現実的ではないので、3,000万円を販売価格として、年間10台の受注を目標に置いています。現在、引き合いをいただいているメーカーさまの1工場だけで、200台のラインといった規模の対応になります。MAGHEAT®の導入が円滑に進めば、より速いペースでシェアを拡大できるものと考えています。

(※1,3)世界におけるアルミインゴットの生産量は、2014年時点で年間5,000万トンを超えた。自動車産業を中心に年率20~30%の生産量の拡大が続くと見込まれる。引用:2030年を見据えた非鉄金属産業戦略の概要 2016年 経済産業省

(※2)特許の国際出願制度。ひとつの出願願書を提出することによって、PCT加盟国すべてに同時に出願したことと同じ効果を得られる。

一地域の産業を担う事業としてのMAGHEAT®

菅原:先のビジネスコンテスト(※4)では、最優秀賞を受賞したMAGHEAT®の事業プラン。CO2の削減以外の利用価値もありそうですね。

窪野:はい、ほかにも経済性、省スペース、安全性の3点において優位性を発揮します。

菅原:それぞれ、具体的にお聞かせいただけますか?

窪野:まず、ガスを使用した火炎から、モーター駆動だけの電力で加熱できるので、経済性が飛躍的に向上します。

昇温にかかるエネルギーを大幅に省略できるのです。ガスと電気を用いた通常の加熱方式に比べると、あるお客さまの試算では、約9割減というデータも出ています。

そして、MAGHEAT®の装置自体は非常にコンパクトです。加工のラインごとに敷設しても、省スペースとなります。大きな炉から金型まで溶湯を運ぶ必要がなくなるので、安全性が高まります。必要な分だけアルミを溶かして、必要な分だけ部品を作るという製造の流動性も高まります。そうした利用価値も評価いただいている商品です。

菅原:MAGHEAT®が、一大事業となる可能性が良く分かりました。メーカー機能の拡充で、貴社はどのように発展していくでしょうか?

窪野:地域にしっかり貢献したいと考えています。具体的には、ものづくりの街として栄えてきた西遠地区で技術協力を得ること。実は、MAGHEAT®は円盤の精度も肝で、製作できるのは浜松のとある企業さま1社だけでした。そちらには、今後の製造もお願いしています。

加えて、県内のアルミ溶解炉のメーカーさまとタイアップを進めています。MAGHEAT®で500℃まで加熱したインゴットを、溶解までスイッチできる炉を作っていただきます。セットで販売することで、一つの溶解施設を作ろうという取り組みです。

長期的な目標として、MAGHEAT®という新技術で、他の新技術に貢献していきたいという思いもあります。他の金属加工やラインへの応用をはじめとする、さまざまな引き合いを各メーカーさまよりいただいています。

菅原:MAGHEAT®は、一つの産業として地域に貢献していくのですね。

窪野:最近では、スロベニア政府からも、自国をMAGHEAT®の拠点にと要請をいただいています。

菅原:世界にMAGHEAT®が普及する日も、すぐかもしれませんね。

窪野:そうした先も見据えながらも、まずは東海地区の自動車業界において、しっかりと導入実績を作っていきます。MAGHEAT®の事業で、西遠地区をより一層盛り上げていきたいです。

(※4)いわしんがんばる企業応援ネットワーク「ビジネス・コンテスト」、「はましんチャレンジゲート」▼レポートはこちら


編集部コメント

経済性のみならず、安全性と環境性能までを兼ね備えたMAGHEAT®。アルミという巨大市場へのチャレンジは、夢の事業と言っても過言ではありません。MAGHEAT®とTSKの今後に期待が持てます。

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SugawaraMisaki について

浜松の魅力を伝えるライターとして、主にwebメディアで執筆中。千葉県出身。東京で不動産会社にて勤務、タイ国・バンコクへ出向する。30歳を目前に「自分を生きる!」と決意し退職。全国を旅して、浜松市へ移住する。現在は、ナチュラルライフを送りながら「マイペースでラク~に生きるコツ」を発信中。得意分野は、オーガニック・農業・旅行・独学英語・コミュニケーション、ビジネス。