静大発の新技術“Dトレイ栽培”で、安定収入・週休2日の農業を実現|株式会社静岡アグリビジネス研究所 糠谷代表にインタビュー

投稿者 | 2018-07-17

農林水産省の調査によると、農業就業人口は2017年に181.6万人と、7年前より79万人(約3割)も減少しています(農林水産省「農業就業人口及び基幹的農業従事者数」より)。減少を食い止めるためには、新たに農業を始める若者を増やすことが不可欠で、労働環境の厳しさや収入の不安定さを解消する必要が指摘されています。

そんな中、株式会社静岡アグリビジネス研究所(本社:静岡県藤枝市)では、誰でも容易に始められ、安定的かつ継続的な経営が可能になる農業のビジネスモデルを構築。生産から販売に関するコンサルティングを通じて、生産者数を増やしています。今回は、同社の代表・糠谷明氏にお話を伺いました。

糠谷 明 氏|プロフィール

1950年生まれ、静岡県清水市出身。1973年静岡大学農学部園芸学科卒業、1975年同大学大学院農学研究科修士課程修了。1976年より、静岡大学農学部園芸学科(後に共生バイオサイエンス学科)野菜園芸学研究室にて教鞭を執るかたわら、2009年に株式会社静岡アグリビジネス研究所を大学内ベンチャーとして起業。“Dトレイ栽培”により生産した「静大トマト」を中心に、生産から流通・販売までのビジネスモデルを確立し、新規就農者・企業に提供する。京都大学農学博士。研究分野は、高品質な野菜の安定生産を目標とした、施設園芸における大規模化と省力化のための養液栽培。メロンやトマトなどの果菜類を対象に、培養液管理、環境管理、栽培システム、植物栄養生理などを研究していた。2016年に定年退職し、現在は静岡大学名誉教授。

容易においしいトマトが生産できる“Dトレイ栽培”技術を実用化

菅原:静大発ベンチャーの中でも珍しい農業分野のスタートアップということで、貴社事業内容や展望をお聞きできたらと思います。本日は、どうぞよろしくお願いします。

糠谷:よろしくお願いします。

菅原:まず、静岡大学にて教鞭を執られていた糠谷さんが、起業に至ったきっかけを教えてください。

糠谷:“Dトレイ栽培”を活用した農業経営が、成り立つことを証明するためでした。データ管理と肥培管理の手法を組み合わせ、高生産性かつ省労力の果菜生産を実現しました。

菅原:“Dトレイ栽培”とは、どのような技術ですか?

糠谷:オランダでイチゴの育苗用ポットとして開発された“Dトレイ”という、250ml容量の連結極小ポットで、果菜類を生産する栽培方式です。もともと、研究していたトマトの水耕栽培にとっても有益そうだと、研究を重ねて転用しました。

菅原:“Dトレイ”で栽培するメリットはなんでしょうか?

糠谷:2点あります。1点目は、栽培管理がしやすいことです。

1枚のトレイにポットが10個連結しているので運搬が楽で、内部のスリットにより苗の抜き取りが簡単です。これらの特徴を生かし、弊社では栽植密度を3,600株/10a、主に4~5段のトマト低段密植栽培を行い、生産・収量管理を容易にしました。

そして、もう1点は、高品質な果実の生産ができるということです。

トマトの根が張り巡らされた“Dトレイ”には、日射量に基づく自動制御で水やりが行われます。栄養配分を整えた培養液を1株当たり約30ml、最大で1日60回程度施用します。施用が多頻度になったことで、細やかな肥培管理が可能となりました。適度な水ストレスが与えられ、高品質なトマトが育つのです。

菅原:比較的容易に、おいしいトマトが作られるということでしょうか。

糠谷:データに基づき栽培管理をすれば可能です。弊社では、一般的なトマト(糖度4~5%程度)に比べて高糖度(糖度6%位以上)で、需要の高いMサイズが得られます。適度な水ストレスにより、ずっしりと締まったゼリー状の少ない果実になり、トマトが苦手な人でもおいしく召し上がっていただけます。

菅原:データに基づく生産管理が貴社の強みですね。

糠谷:温度管理や区画リレー栽培を採用し、周年栽培を可能にしました。静岡県内でトマトの収量が落ちる、夏場の7~10月でも、弊社では安定的にトマトを供給しています。そういった理由から、弊社で生産したトマトにはブランド価値が付いて、「静大トマト」という名称で販売しています。

当社も9期目を迎え、ビジネスモデルの有効性も言えるようになってきたのではと思います。


“Dトレイ栽培”の根の様子

経営と生産の負担を減らし、新規就農を容易にしたい

菅原:“Dトレイ栽培”普及の背景には、どのような思いがあるのでしょうか?

糠谷:農業を、楽で儲かる仕事にしていきたいのです。農業には「年中無休の働きずくめで、儲からない」というイメージが付きものです。そのイメージを変えるために、農業はサイエンスでなければならないと考えています。

菅原:農業をサイエンスにするための、具体的な施策をお聞かせください。

糠谷:弊社では、栽培データを収集し、おいしいトマトの作り方をマニュアル化、数値管理を可能にしています。技術指導を通じて、農業従事者を増やす努力を重ねています。

菅原:“Dトレイ栽培”の活用で生産者の負担はどれほど減るのでしょうか?

糠谷:10aあたりの労働時間は、年間2,200時間ほどです。この10aを一人で管理するとして、1年間は53週なので、週におよそ40時間の労働で済むということです。朝から晩まで休みなく働かなくとも、余裕を持って仕事ができるのです。

菅原:“Dトレイ栽培”を活用することで、どの程度の収益が見込めるのでしょうか?

糠谷:10aあたりの年間目標売上が1,000万円です。設備投資は1,500~2,000万円、10年償却として年間150~200万円です。粗利は800~850万となり、さらに人件費や水道光熱費、種苗・肥料代を引いても、350~400万円が農業所得として残ります。

菅原:初期投資の勇気を出せば、安定的に継続収入が得られるようになるのですね。

糠谷:“Dトレイ栽培”を導入して失敗をしたという話は、まだ1件もありません。思い切って投資をした生産者さんからは、「こんなに楽になるなんて」と、驚きの声をいただいています。

菅原:技術習得にかかる年数はどれほどでしょうか?

糠谷:3~4年、弊社で研修を受けていただければ間違いありません。早い人なら、1年でコツを掴み独立していきます。“Dトレイ栽培”の導入先には、継続した技術指導も行っています。「農業経営と生産の負担を減らし、新規就農を容易にする」ノウハウを活かし、地域・社会に貢献することこそ、弊社設立の目的ですので。

品目の横展開と全国展開を加速し、農業の在り方を変える


「静大トマト」は、果肉が締まりゼリー状の部分が少ない。

菅原:今後の事業展開について教えてください。

糠谷:2点あります。1点目は、“Dトレイ栽培”で提供できる品目を増やすことです。じつは、以前より研究を進めていた、メロンの商用化は既に進めています。サンメロウ株式会社(本社:静岡県磐田市)を通じて、“Dトレイ”を活用した高効率・高品質のメロン生産を行っています。

もう1点は、全国展開の加速です。現在、資材設備メーカーと協力し、“Dトレイ栽培”の設備全体を、温室コンテンツとしてパッケージ化して販売しています。直近では、イオンアグリ創造株式会社さまにて、圃場3.3haに導入いただきました。

菅原:ビジネスの幅が広がっていますね。将来のビジョンをお聞かせください。

糠谷:就農支援をすすめ、若手の農業従事者を増やしたいと考えています。生産者の高齢化は、喫緊の課題です。一方、若い人の農業への関心も高まっていますが、旧来のイメージにより、チャレンジのハードルが高く思われがちです。

弊社の“Dトレイ栽培”は、女性でも就農が可能なほど、高生産性かつ省労力のモデルです。このノウハウを多くの若い人へ伝え、日本の農業を盛り上げていきたいと思います。


2018年4月に新卒入社の海野さんと。

静岡アグリビジネス研究所では、インターンから新卒採用まで、雇用の門戸を広く設けています。見学も常時受け付けていますので、お気軽にお問い合わせください。

▼各種お問合せ先
TEL/FAX:054-643-9924
e-mail:nukaya.akira@shizuoka.ac.jp

編集部コメント

日本における農業の技術指導は、親から子へ、または、師匠から弟子へと、経験と勘に基づき長期にわたることが依然多くあります。また、独立をしたくとも、初期投資の費用の回収に苦慮することが高いハードルとなります。
静岡アグリビジネス研究所のビジネスモデルは、そんな農業の在り方を一新し、稼げる仕事にしていく可能性が非常に高いと感じました。農業に興味関心のある方は、ぜひ一度、同社の見学に足を運んでみてください。