地域の笑顔をつなぐ自転車タクシー|一般社団法人りんたく遠州 佐野 正武 代表にインタビュー

投稿者 | 2018-10-01

定住人口が減少する浜松市。“訪れても住んでも魅力のある市”を目指し、持続的発展を支える産業として、観光産業へ注目が寄せられています。「浜松市観光ビジョン」には、「二次交通の活用」も明記され、全市を挙げた観光地域づくりの取り組みが推進されています。

そんな中、自転車タクシーを取り入れて、地域活性化に取り組むのは「一般社団法人りんたく遠州」。観光を含めた社会課題の解決に励むのは、65年続く、地元の自動車関連企業の3代目でした。佐野代表に、創業エピソードと今後の展望について、お話を伺います。

佐野 正武 氏|プロフィール

1980年、静岡県浜松市生まれ。株式会社望月自動車商会、代表取締役。自動車関連の専門学校を卒業後、イスラエルにて語学研修と職業体験を経る。帰国後は浜松市へ戻り、自動車関連の企業にて1年間板金塗装を学ぶ。その後、望月自動車商会へ入社し、自動車の販売と整備に関するスキルを習得し、2010年に家業を継ぐ。自動車に乗れない方にも便利で楽しい乗り物を提供すべく、2017年9月、一般社団法人りんたく遠州を創業、代表理事に就任。各国からのホームステイ受け入れなど、国際交流も大切にしている。

家業を通じて見えてきた、浜松の社会課題

菅原:「りんたく」とは、聞きなれない言葉です。貴社サービスについて、詳しく教えてください。

佐野:「りんたく」とは、昭和20年ころ、市民の足として活躍した自転車タクシーのことです。その「りんたく」を活用し、街中や観光地のガイドを聞きながら、ゆっくりとご移動いただけるサービスをご提供しています。

現在は、主に金・土の夜に市街地を、土日の日中は、浜松の有名な温泉街である「舘山寺」エリアを廻っています。基本料金は、大人1人あたり初乗り200円です。30分で1,000円などの周遊コースも用意しています。

菅原:佐野さんは、望月自動車商会の3代目代表でいらっしゃいますね。近年になって、「りんたく」のサービスを始められたきっかけは何でしょうか?

佐野:ご年配者を中心に、生活を豊かにする移動手段ができたらいいなと考えていたことです。自動車は、浜松にはなくてはならない“冷蔵庫(3種の神器)”のようなものなのです。しかし、長く事業を続けていると、免許を返納したり、ご家族から車の運転を反対されたりといったご年配者のお客さまも出てきます。

菅原:そのようなお客さまの、先の生活が心配になりますね。

佐野:はい、長い付き合いなので。ご本人には聞かずとも、「あの方、家族いないはずだよな」など、いろいろと思案してしまうんです。そこで、自動車の代わりとなる移動手段を考えたいと思いました。

菅原:当初は、どのようなイメージをお持ちだったのでしょう。

佐野:トゥクトゥク(タイの複数人乗りのオートバイ)や人力車はどうだろうと、他の観光地で見かけたことのある乗り物から出発しました。用途や事業の可能性をリサーチしていきましたが、双方とも浜松で展開するのは難しいと判断しました。

菅原:どのような点で難しいと感じたのですか?

佐野:まず、トゥクトゥクは、タクシーとして公道を走らせるためには、法律の制限がかなりありました。また、人力車は、観光地や繁華街が点在する浜松市で展開するには、労力がかかりすぎると思います。奈良市のように、ステーションの目の前がお寺の街で、そのエリアだけを廻るのなら良いのですが。

菅原:出鼻をくじかれてしまいましたね。

佐野:それから数か月間考えたでしょうか。そんなとき、「りんたく」の存在をインターネット上で知ったのです。狭い路地裏にも入れる車幅で、浜松の入り組んだ街中もスイスイ走れます。公道も歩道も走行できて、中古車なら安く手に入ることも分かりました。もうやるしかないと思って、事業化への一歩を踏み出しました。

奥浜名湖でのプロジェクトをきっかけに事業は拡大へ

菅原:はじめに「りんたく遠州」を走らせたのは、どちらでしょうか?

佐野:奥浜名湖(自然豊かな浜名湖北部のエリア)です。当時、大河ドラマの「井伊直虎」ブームでたくさんの観光客が来ていました。しかし、ロケ地やドラマゆかりの地をめぐる交通手段がなかったのです。

菅原:思い切って始めるにあたり、気を付けていたポイントはありますか?

佐野:安全な乗り物であることや地域のためにやらせていただいているという、僕の意図をうまく伝えることには、非常に気を遣いました。自分の意図しないところで、イメージが曲って伝わってしまうのは辛いと考えていたので。

菅原:そのような懸念を、どのように払拭してきたのですか?

佐野:地元の方と、なるべく仲良くすることですね。観光協会をはじめ、市の運営している資料館や地元名物のみそまんじゅう屋さん、お寺などに何度も足を運びました。「りんたく」のお客さまにも、そういったスポットを紹介しました。

「りんたく」を走らせる了解を地元警察から得るのも、初期にしたことです。事前に地主さんと交渉し、許可が出たところに停留所を15カ所ほど作りました。時間は長くかかりましたが、それが地域全体に認められるきっかけになりました。

菅原:実際、「りんたく」を走らせてみて、周りの反応はいかがでしたか?

佐野:当初から、地元の方が次々とお客さまを紹介してくれました。とあるお寺では、毎週僕のためにお弁当まで用意してくださり、地域との一体感を感じることができました。

菅原:その後、事業はどのように進展しましたか?

佐野:はましんチャレンジゲートに挑戦したことで、さらに発展していきました。「りんたく遠州」の事業プランが最終審査に進み、最終プレゼンまでの3ヶ月間、メンタリングを受けたのです。メンターからは厳しいご指導もありましたが、そのお陰で事業の可能性が広がり、軸も固まりました。

菅原:具体的には、どのようなビジョンが見えたのでしょうか?

佐野:製造・タクシー・広告という、りんたく遠州の事業の3本柱が見えてきました。メンタリングで、「タクシー事業以外にも可能性があるのではないですか?」と言われて、意識が変わったんです。

「りんたく」には重量制限がないため、乗車人数の規制がありません。2列シートで4〜5名がゆったり座れる車両を作りたいと思いました。モーターに専売特許が絡んでいるので、自社製造すれば販売コストが抑えられます。

また、広告も事業に組み込めることに気付きました。人通りの多いエリアをゆっくり走る「りんたく」は、人目に付きやすいので。今は、大きさによって月額2,500から8,000円で広告枠を提供しています。

菅原:そんな佐野さんの本気の姿勢に、方々から注目が寄せられたと思います。

佐野:はい、「奥浜名湖の次は、舘山寺に来てください」と、観光協会の方から声がかかりました。舘山寺でもまた、レストランや遊覧船乗り場などに協力いただいて、周遊コースを作ることができました。観光事業では、地域と一体になることがとても大切ですね。

菅原:事業が確固たるものになる中で、佐野さんが携わる意義も見つかっていきましたか?

佐野:「車屋がどうして自転車をやるのか?」という質問は、よくいただきます。僕は、逆に、自動車屋だからこそできる事業だと思っているんです。機械がわかる、「りんたく」を運搬するトラックがある、「りんたく」の保管場所もある。自転車タクシーの事業には、この3拍子が揃わないと絶対に成立しないのです。

菅原:そうすると、メンテナンスコストも抑えられますね。

佐野:はい、タイヤ部品の費用くらいで済んでいます。修理に関しては、スタッフがすぐに対応できますし。そういったことを総合して考えると、「りんたくは、自動車屋にとっての天職だ!」と、僕は思うんですね。お客さんも付いてきて、今では心からそう思っています。

「りんたく」は、浜松市に笑顔を咲かせる乗り物へ

菅原:「りんたく遠州」は、今後どのように展開していきますか?

佐野:現段階では観光地の周遊をメインにやっていますが、イベントや地域の活性化にも活用できます。例えば、望月自動車では、商談の間にお子さんを乗せて走る「動くキッズコーナー」が好評です。点検やオイル交換をお待ちいただく間に、お客さまを乗せて周辺のご案内もしています。

菅原:広告事業の展開については、いかがでしょうか。

佐野:浜松の街は、昔ながらの繁華街と主要な駅とが離れているのもチャンスかもしれません。「りんたく」でその導線を繋ぎ、行き先が決まっていない乗客には店をご案内するなど、広告も力を入れていきます。

菅原:地域が活性化していきますね。

佐野:「りんたく」の面白いところは、地域を巻き込めることなんです。すれ違う人が、みんな手を振ってくれたり笑顔になったりします。乗ってくれた人も喜んでくれるし、地域の人とのつながりもできる。そんなふうに地域を明るくする一つの材料が、この「りんたく」だと思っているので、ますます普及を頑張っていきます。

菅原:「りんたく」の普及に取り組む佐野さんの、今後の目標を教えてください。

佐野:東京オリンピックまでに、浜松市に走る「りんたく」の台数を10台まで増やします。また、製造を急ぎ、浜松市以外の観光地や地域に届けたいと考えています。

菅原:りんたくドライバーも募集中とのことで、どのような方が向いていますか?

佐野:人と話すのが好きな人ですね。年齢は問いませんし、免許も資格も必要ありません。貸し出し時間に応じた料金でりんたくを貸すので、その日の売上げをドライバーさんご自身の稼ぎとしていただく形です。たくさんの笑顔と出会えるサービスですので、ご興味のある方はぜひお問い合わせください。

編集部コメント

住む人や街が変化していけば、交通手段にも進化が求められます。浜松市は、政令指定都市でもあり、日本で2番目に広い面積を有する市でもあります。独自の交通手段が発達する可能性もあるのではないでしょうか。「りんたく」のサービスは、人と地域の繋がりを感じられるサービス。台数が増えるほどに、たくさんの方の笑顔を生みだし続けていくでしょう。今後の発展に期待が持てます。

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SugawaraMisaki について

浜松の魅力を伝えるライターとして、主にwebメディアで執筆中。千葉県出身。東京で不動産会社にて勤務、タイ国・バンコクへ出向する。30歳を目前に「自分を生きる!」と決意し退職。全国を旅して、浜松市へ移住する。現在は、ナチュラルライフを送りながら「マイペースでラク~に生きるコツ」を発信中。得意分野は、オーガニック・農業・旅行・独学英語・コミュニケーション、ビジネス。