林業×光技術で日本の木材を世界に!里灯都(リヒト)代表酒井氏インタビュー

投稿者 | 2017-11-07


日本の国土は3分の2が森林で覆われており、その約4割が昭和20年代から植林された人工林(育成林)です。農林水産省では平成21年に「森林・林業再生プラン」の中で「10年後の木材自給率を50%以上」という目標を発表しました。国産材利用の割合を増加させていく中で、最先端技術を使い「林業×光技術」で国産材利用を加速させる株式会社里灯都(本社:静岡県浜松市浜北区)の代表酒井氏にインタビューし、その事業展開について語っていただきました。

酒井浩一

1975年生まれ、大阪府出身。奈良先端科学技術大学院大学卒業後、浜松ホトニクス株式会社(本社:静岡県浜松市中区)で医療機器の研究・開発職を経て、光産業創成大学院大学に入学。2017年に株式会社里灯都を設立し、代表取締役に就任。現在は大学で光技術を応用した木質系材料の改質、改変を研究し、事業展開している。

研究×地域活動から生まれた起業秘話

小澤:医療機器の研究開発をされていた酒井さんが林業に関わることになったご起業の経緯について教えていただけますか?

酒井:浜松ホトニクスで医療機器の研究開発をしながら、浜松市浜北区にある公益社団法人浜北青年会議所で地域活動をしていました。

青年会議所の活動をしていた関係もあり、浜松市の総合計画策定委員、通称「浜松市未来デザイン会議」に参加していました。

その活動の中で、自分は技術者として地域に還元できる方法はないだろうかと漠然と考えていました。

観光について考えましょうとか、浜松市は製造業のまちと言われることが多く「製造業が衰退していくとよくないですよね」と評論家っぽく話をしている中で、自分自身がプレイヤーにならないというのもおかしいと思っていました。

小澤:研究職と地域活動を通して、ご自身もプレイヤーになりたいという気持ちが生まれたんですね。

酒井:私が地域に貢献できることは何なのかと考えたとき、浜松ホトニクスの制度で大学院に進学し、起業できることを知りました。

制度を利用して起業する選択肢があると思い、色々な方にご相談させていただき、浜松は何を一番困っていて、やらなければいけないことは何なのかと考えました。

小澤:浜松市は合併したことにより海から山まであり、農業・工業・林業・水産業など大体の産業はあります。

酒井:そこで、これまで光技術の応用があまり進んでいない分野は何かと考え、海か山に行こうと思いました。住まいが山側だったり、地域活動をしていたことから林業の方たちと出会う機会がありました。

話を聞くと「自分たちの力で山を良くしたい」と強い想いを持っており、私は光技術を使って中山間地域を支援できるかもしれないと思い付きました。

しかも、経済活動として変えられたらより良いのではないかと活動を始めたのが起業の第一歩です。

国産材を革新的な技術で商品化

2017年7月に開催された第11回ビジネスマッチングフェア in Hamamatsu 2017にて

小澤:研究職と地域活動を組み合わせて社会貢献をしていこうと課題感を持ってご起業されたんですね。

酒井:2016年8月に個人事業主として里灯都を創業(2017年2月に法人化)。社名の由来はドイツ語で「リヒト」は「光」という意味があり、漢字は「山里に光を灯してより発展させて都にしていこう」という意味が込められています。

小澤:研究開発で関わる国内の林業は、様々な課題を抱えているのではないでしょうか。

酒井:国は林業の自給率を上げたいという目標があります。現在の国内自給率は35%くらいで、ここ数年ずっと上がってきています。

国は国内林業の自給率を2025年までに50%までに上げたいという目標があります。実はこの数字は目的が定まっているという意味では非常に簡単と言えば簡単なんです。

なぜなら、国産材を売れるようにすればいいのですから。

小澤:国産材は高いイメージがあります。家を建てるときはなるべく安く抑えたいと考えた場合、国産材を選択するのは難しいのではないでしょうか。

酒井:実は価格的には国産と外国産は殆ど変わらないんです。使い勝手が良く、流通し易い物を世の中は望んでおり、その点について外国産が勝っているというのが現状です。

現場と研究者を繋ぎ、技術で解決できる課題をサポート

株式会社里灯都 公式ホームページのスクリーンショット

小澤:国産の木材は使い易さや流通に課題があるのでしょうか。

酒井:その辺は私も勉強中です。現場の方のお話を聞きながら「技術で解決できる課題」に関しては一緒にやって行きませんか?とお声をかけをさせていただいています。

現場の方たちにヒアリングをして共同プロジェクトという形にした事業が当社の大きな柱の一つです。

小澤:主にヒアリングをしているのは山間地域の林業の方々ですか?

酒井:私はどちらかというと「売る側」の材木業の方たちですね。材木業の方たちと連携して売れないものが売れるようになっていくと、中山間地域全部の里山を含めて経済的に潤っていくだろうという考えです。

研究と一口に言ってもじゃあ何をするのかというと「これをやらなければいけない」という考えは材木業の方にはある。ただし、最先端技術を現場感覚として何が使えるのか分からないので研究者と現場を繋げる役目をしています。

研究開発については守秘義務があるのでHPには詳しく公表できないものもありますが、今後も実際に商品を作って行く予定です。

光技術で天竜木材を世界に届けたい

小澤:経済産業省が主催し、アクセンチュア株式会社(本社:東京都港区)とWiL(本社:東京都港区)が運営する「始動 Next Innovator 2017」に参加されていると伺いました。具体的にはどのようなプログラムなのでしょうか?

酒井:大企業の新規事業やベンチャー企業の担い手を育成するプログラムです。プログラムを通じて、イノベーションを起こすために有効なメソッドとイノベーターとして最も重要なマインドセットの体得を目指します。

「始動 Next Innovator 2017」は色々な意味での「しどう」をしていくものです。

私はプログラムに参加して今度は自分から発信していく側に回り、皆様にいただいているご縁から新たなことを試みて行こうと考えている最中です。

小澤:新たな試みをしていくというのは、具体的にはどのようなことでしょうか。

酒井:木材は売り難いという課題があります。その課題は特徴的な木材に機能を追加して作ってあげればよいと考えています。

現在、一般的にある木材の高機能化は燃えにくい、腐りにくい、虫が食わないなどの機能があります。

そこに個性的な機能を追加した木材を開発して、皆さんと一緒に木材をより活用して売っていきたいと考えています。

小澤:今まである木材の技術に新しい技術を取り入れて事業展開していくということですが、こちらは現場や材木業の方と一緒に開発していくのでしょうか?

酒井:林業の現場や材木業の方はもちろん、建築会社、家具屋など木材に関係しているお客様のところにお伺いして、どういう木材なら欲しいですかとニーズを聞いているところです。

浜松からイノベーションを巻き起こす

第4回はましんチャレンジゲートの授賞式にて

小澤:平成29年10月に浜松市で開催されたドイツのチューリンゲン州と浜松市のネットワーキング会に参加し発表されたと伺いました。世界に向けてどのようなアピールをしたのでしょうか?

酒井:私は光技術を使って林業を変えたいとお伝えしました。ドイツのチューリンゲン州は光技術の大手企業やベンチャー企業が多いまちです。

現在、浜松市は光技術の研究者と企業と行政が一緒にやっていこうという動きがあるので、協力することによって相乗効果が得られるのではないかと期待をしています。

小澤:平成29年3月に行われた第4回はましんチャレンジゲートでは、創業部門で優秀賞を受賞されました。その時のテーマは「天竜木材を世界に!!~光技術による天竜杉の乾燥促進処理~」です。

今後は国内だけではなく、海外進出も考えてらっしゃるのでしょうか?

酒井:木材技術を高めたい、国内の木材を海外に売りたいという私の目標は天竜の目標でもあるのです。

新規の木材をパイの小さい国内で売っていくのは難しいと考えています。

そのため付加価値のある木材を海外に売っていくという事業モデルは成立すると考えています。

ベンチャーのスタートアップに大切なことは「想い」


小澤:最後に酒井さんにとってスタートアップに大切なことは何でしょうか?

酒井:ベンチャーをやるときに一番大切なことは「想い」です。

小澤:「想い」とは具体的にどのようなことを指すのでしょうか?

酒井:株式会社ミクシィの元社長で現在政策研究大学院大学客員研究員である朝倉祐介氏がアントレプレナーの定義を「誰からも頼まれていないのに、成し遂げなければならないと固く信じることの実現に向けて自ら率先して行動すること。」と仰っていました。

私は誰かに「林業のことをやってください」と頼まれたわけではありません。しかし「絶対にやり抜くんだ!」という強い気持ちでパートナーとなってくれる方々と一緒に一歩一歩着実に進んでいます。

「光」の技術者として未来に発展できる仕組み創り

光産業創成大学院大学 公式ホームページのスクリーンショット

小澤:「誰もやらないなら自分が課題を解決しよう」とスタートアップされる方が多いと感じます。その分、ロールモデルとなる事業がなく、常に暗闇の中でトライ&エラーを繰り返しているような感覚なのではないでしょうか。

酒井:ベンチャーのスタートアップは確固たる結論となるものが見えない、何をやっていいのかまるきり分からない、答えのない状況で一人立ち上がっていきます。

多くの方が協力してくれるかもしれないけれど、どこへ行っていいかわからない。そんな中で一本だけ光が伸びて見えてくる「一寸先は光」です。

そこに「想い」が繋がった時、皆さんが背中を押してくれることで私は真っすぐ進んで行けます。

浜松ホトニクスでは最先端の研究をさせていただいていました。以前、お客様に「最先端のことをしているのに、なぜ木材というローテクで衰退していく分野をやろうとしているのか?」と聞かれました。

私からしたら、日本の林業を皆さんと一緒に立て直せる道筋が出来たら、私が経験したどんな最先端な研究より、革新的で飛躍できるチャンスがあると考えています。

林業は傍から見ればローテクで衰退しているようなイメージがあるかもしれません。しかし、国の方針を調べてみるとすごく考え活動されており、現場の方たちも一生懸命です。

それは私も現場に行かなければ分からないことでした。実際に国産木材の自給率も数字が上がっています。

では私は何をやるべきか?と考えたとき、技術者としてちゃんとお金儲けができる仕組みが作れれば、この業界は発展していくだろうと確信しています。

 

編集部コメント

光技術で付加価値のある天竜木材を世界に広めたいというミッションを持って走り続ける里灯都酒井氏。浜松から国産材の自給率を高める挑戦は加速していきます。

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OzawaShiho について

1987年生まれ、愛知県出身。フリーランスのライターとして主にWEBサイトで観光・グルメ、インタビュー記事を執筆。新卒で病院のリハビリ職として5年間勤務。趣味ではじめたブログがきっかけで、フリーのライターに転職。愛知県を拠点に、国内の田舎を旅しながら記事を書いている。