マーケットインの農業と栽培技術をマニュアル化|株式会社Happy Quality 代表取締役 宮地 誠 氏にインタビュー

投稿者 | 2018-11-22

農業における就業人口は年々減少し、全体の6割超が65歳以上となりました(農林水産省 農業労働力に関する統計より H29.)。若い新規就農者を増やすためには、農業所得を高める取り組みやビジネスモデルの確立が急がれます。

そんな日本の農業の未来を開拓するべく、メロンの一大産地である静岡県袋井市で産声を上げたベンチャーがあります。マーケットインの農業と栽培マニュアルの確立で、儲かる農業の普及に取り組む株式会社Happy Quality。宮地代表に、経営視点とビジョンを伺いました。

宮地 誠 氏|プロフィール

浜松青果市場にて21年にわたり競り人を務めたのち、2015年に株式会社Happy Qualityを設立。カリウム濃度を半減した『ドクターメロン』や、リコピンの含有量が2倍(※)となる『Hapitoma』を世に送り出す。関連会社のサンファーム中山と連携し、革新技術および栽培マニュアルの確立を行う。関東経済産業局「中小企業など経営強化法に基づく新連携事業計画」認定、静岡県ニュービジネス大賞受賞。

(※)従来の大玉トマトと比較、Happy Quality比

「透析患者でも食べられるメロンを」農家の意志を受け継ぎ起業

ドクターメロンは、糖度が13%以上。一般的な栽培方法と比べ、約1.4倍の収量を誇る

菅原:貴社の事業について教えてください。

宮地:完売品のニーズ調査をして、“売り切れる野菜”を販売しています。コンセプトに基づく商品開発から栽培マニュアルの確立までを手がけており、“収量や売り上げ高を予測・計画でき、誰でもできる農業の普及”を目指しています。

菅原:マーケットのニーズに合った農作物を提供しているのですね。どんな商品がありますか?

宮地:2つあります。1つは、カリウム濃度を半減した『ドクターメロン®』。これは、糖尿病より患者数が多いと言われている透析の患者さんが食べられるように開発しました。アレルギー反応によるピリピリした食感や、メロン特有の青くさみも緩和しています。

もう1つは、リコピンの含有量が2倍となるフルーツトマトの『Hapitoma』です。来年の6月には、もう1つ機能性表示を取得して商品の優位性を持たせていきます。

菅原:『Hapitoma』のロゴは、「i」の字だけ赤いのですね。


宮地:愛(i)情たっぷりで育てていることを強調しました。商品の開発において、機能や味の追求だけではなく、“食のバリアフリー化”をキーワードにしています。例えば、ドクターメロンなら、食べたくても食べられない患者さんご本人や、そのご家族のストレスを減らしたいという思いから開発しました。

菅原:どのような思いや経緯があって創業されたのでしょうか?

宮地:もともと、私は、青果市場で競りの仕事をしていました。販売チャネルが多様化していく中で、市場の売り上げは急速に落ちていて。就農人口も減っており、不耕作となるハウスや畑が目立っていたんです。農家さんが減ると市場の商売も成り立たなくなっていきます。それを、どうにかしたいと思ったのが創業のきっかけですね。

菅原:市場や農業の課題を目の当たりにしたんですね。

宮地:『クラウンメロン』の競りも担当していたことから、一大産地である袋井市の生産法人さまから相談を受けたことがありました。「袋井から納入しているメロンは高品質なので、もっと量を売ってほしい」と。

そんな中、袋井市の別のメロン農家さんが、低カリウムのメロンを試作していました。市場の担当として販売の協力に動いてみたのですが、基準が見合わずにマーケットに流すことができませんでした。その時の農家さんのとてもつらそうな顔が、長らく脳裏にこびりついていて。

菅原:ご自身の限界を感じた経験だったのでしょうか。

宮地:地方の市場なので、産地と連携して特色ある成果物を生み出す商品開発のための余裕がありません。悔しさが自分の中で募っていましたね。メロン農家さんの意志を受け継いだと言いますか、何とかしたいと思いました。

菅原:そこから、どのように起業へ至ったのでしょうか?

宮地:フットワークの軽いメロン農家さんが、早々に耕作放棄となっていたハウスを紹介してくれました。それが、セキュリティや費用などの条件が良い施設だったんです。市場を退職して1年半後から、袋井市で事業を開始することになりました。

菅原:事業がスタートして、すぐにメロンの生産が始まったのでしょうか?

宮地:実は、最初の半年間は、圃場の整備に費やしました。草取りに始まり、ハウスの中の土を出したり、残っていた細かい備品を撤去したりしました。近隣の大学生にもアルバイトとして手伝ってもらいながら。今、生産を担っている若手社員は、そのときの縁で入社してくれたんです。

菅原:そんな創業のご苦労があったのですね。競り人から生産者への転換とは、大きな路線変更です。

宮地:農学の知識なんてゼロでしたからね。そんなとき、養液栽培の第一人者である株式会社静岡アグリビジネス研究所の糠谷代表(※)にご縁をいただきました。メロンのカリウムを下げる方法について相談したところ、糠谷代表は快く引き受けてくださって。そこから、『ドクターメロン®』のプロジェクトがスタートしました。試行錯誤を繰り返して、3年かかってやっと商品化できました。

菅原:糠谷氏との出会いによって、貴社の事業が推進したのですね。トマトを手掛けたきっかけは何でしょうか?

宮地:糖度8度以上の静岡県産のトマトを一年中ほしいという要請が、市場からあったことです。市場では、産地間リレーを採用して、全国各地で栽培されたトマトを集荷している中、静岡県産だけで賄わなければいけません。技術革新と、作り手を増やすための栽培マニュアルの確立が必要でした。そのような経緯があって、今に至りますね。

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菅原:優れた栽培技術を持つHappy Qualityでは、世界に先駆けたプロジェクトが進行中と聞きました。

宮地:産業技術総合研究所との協業で、赤外線を用いた「IRセンサー」の実用化を進めています。 青果物の糖度や酸度を、正確に測定できるものです。

菅原:具体的に、どういったことでしょうか?

宮地:実は、トマトとレモンの糖度を従来の糖度計で計ると、同じ数値が出るんです。糖度計が、青果に含まれるさまざまな有機物に反応するからなんですよ。トマトを例にとって、実際の甘さだけを計ると、その度数は糖度計で計ったときの約半分になります。

各成分ごとの値を抽出するためには、超精密機器を使用するしかありません。少しの振動でも数値が狂ってしまうため、重さが1.5トンもあり、取り扱いも非常に難しいのです。それを小型化して、農場で使えるレベルの製品にします。

菅原:「IRセンサー」は、生産者にとってどのような活用方法がありますか?

宮地:食味に関するあらゆるデータが計測できるので、商品開発や農産物の販売に活かすことができます。将来的には、それらのデータをもとに、栽培の技術や機械の開発、栽培マニュアルの確立といったモデルを構築していきます。

菅原:機器の製造販売を皮切りに、異業種へも参入予定があるでしょうか?

宮地:静岡大学発ベンチャーのアグリエア株式会社を立ち上げ、AI事業を開始しました。静岡大学でIoTなどの研究を行う峰野研究室との協力で、「しおれ検知ソフトセンサー」の開発を急いでいます。植物がしおれる兆候をカメラ(画像)で撮影し、即座に肥料や水を与えられるようにするセンサーです。

しおれの対策は、しおれが起きたときでは遅く、しおれる瞬間にはしたいもの。そのアルゴリズムが見出せたので、ソフトウェアの開発を進めています。2019年3月には、プロトタイプができる予定です。

菅原:Happy Qualityの技術が、異分野の研究・技術と組み合わさっているのですね。

宮地:これまで、マーケットインの思考に基づき、“農作物の作り方”という弊社の独自技術を積み重ねてきました。このシーズを今研究開発しているテクノロジーと組み合わせることで、熟練の生産者レベルの農業が誰でもできるようになります。そうしたHappy Qualityのマニュアルをフランチャイズ展開するのが、弊社のマネタイズの根幹です。

事業とともに生産者が成長できるフィールド

菅原:さまざまな分野との協業で、事業がますます発展しているのですね。

宮地:農学の理論は絶対条件にしています。その上で、さまざまな機関と協業することにより、農業界におけるさまざまな論文の実証検証を、スピーディかつ精度を高めて行えると思います。分析データや数値の可視化を、各個体のレベルで行っていきたいです。

菅原:貴社の事業が、国家のプロジェクトにも採択されている訳が分かりました。

宮地:今年の9月には増資を行い、資本金を3,000万に増強しました。億単位の投融資もほぼ確定しています。各センサーの開発は非常に壮大なプロジェクトですが、3年後の実用化に向けて着実に動いています。

菅原:起業から3年で、ここまでの規模になったのには驚きです。

宮地:最初の売上計画で目標だった1,500万円を超え、年商が1憶円まで到達しました。今、事務所に併設されているハウス5棟(44a=約1300坪)は、そんな様子を見た金融機関の関係者さまが紹介してくれたものです。ちょうど新たなメンバーの成長のために、メロン以外にも規模を広げたいと思っている時期でした。弊社のスタッフも良く付いて来てくれました。本当に、皆さんに支えられている会社です。

菅原:Happy Qualityは、やる気のある人が成長できるフィールドでもあるのですね。

宮地:新入社員は、独立を前提としており、研修の機能も用意しています。最初の数年間は生産に集中し、その後2~3年かけてファイナンスや経営を教えていきます。生産と経営が組み合わさって初めて、農家のスタイルができ上がると考えています。

菅原:そろそろ独立するスタッフの方もいらっしゃいますか?

宮地:今いるスタッフが、来年の春には独立する予定です。近い将来、Happy Qualityの役員にもなっているでしょうし、どんどん事業を進めていってほしいですね。そのときには、これまで通り、全面的な支援を弊社でしていきます。

菅原:最後に、農業の可能性を教えてください。

宮地:所得が少ないから農家はできないと言う人は多いのですが、その認識は間違いです。技術がなくて良い青果物ができないから、お金にならないというのが正しい理解。弊社では、その技術の未熟さを補うサポートをしています。やる気のある若い方に、ぜひチャレンジしてもらいたいと思っています。

編集部コメント

「ニーズのある商品を生産する」という経済の基本に立ち、躍進を遂げてきたHappy Quality。テクノロジーと組み合わさることで、日本の農業を大きく変えていく可能性を秘めています。今後の活躍に期待が高まります。

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SugawaraMisaki について

浜松の魅力を伝えるライターとして、主にwebメディアで執筆中。千葉県出身。東京で不動産会社にて勤務、タイ国・バンコクへ出向する。30歳を目前に「自分を生きる!」と決意し退職。全国を旅して、浜松市へ移住する。現在は、ナチュラルライフを送りながら「マイペースでラク~に生きるコツ」を発信中。得意分野は、オーガニック・農業・旅行・独学英語・コミュニケーション、ビジネス。