低被ばく高精度のX線イメージング技術が、近未来のインフラを変える|株式会社ANSeeN 小池 昭史 代表へインタビュー

投稿者 | 2018-09-02

レントゲンがX線を発見したのは1895年、今から100年以上昔のできごとです。ですが、X線を利用した写真は、モノクロで不鮮明さを残したまま。そのイメージング技術にはイノベーションが起きてきませんでした。

現代では、どの業界においても人の命に関わるリスクが存在し、より緻密な作業が要求されています。そんな中、「見えなかった不安を、見える安心に変える」次世代のX線カメラ開発に挑戦している企業があります。人の安心と安全に関わる近未来インフラを開拓する、株式会社ANSeeN小池代表にお話を伺いました。

小池 昭史 氏|プロフィール

1984年、群馬県前橋市生まれ。国立群馬工業高等専門学校にてソフトウェアとデバイスの開発技術を学ぶ。2005年、静岡大学情報学部入学。2007年より静岡大学電子工学研究所の青木研究室に所属。CdTe(カドテル)半導体を用いた次世代放射線イメージングの可能性に強い関心を持ち、研究にまい進する。2008年、研究課題がJST大学発ベンチャー創出推進に採択される。2009年、静岡大学大学院情報学研究科修了ののち、株式会社ANSeeNの設立に参画。2012年に代表取締役就任。

次世代X線センサーで、見えない不安を見える安心に

菅原:貴社では、低被ばく・高精度のX線イメージングという、独創的でイノベーティブな取組みをされています。会社設立の背景を教えてください。

小池:弊社CTOでもある、静岡大学電子工学研究所、青木 徹教授の次世代放射線イメージングの研究成果をもとに設立しました。低被ばく・高精度の検査を実現する、CdTe(カドテル)半導体を用いたフォトンカウンティング型のX線センサーの設計開発を行っています。

菅原:CdTe(カドテル)半導体とは、どのようなものですか?

小池:CdTe(カドテル)とは、高い放射線吸収率を誇る半導体素材です。X線を直接電気信号に変換できるため、X線本来の情報を活用することができ、クリアなX線画像を得ることができます。

菅原:フォトンカウンティングについても教えてください。

小池:光の最小単位である“フォトン”の粒を1個ずつ計測するという技術で、瞬間的にエネルギーを値別に計測します。これをX線の計測に応用することで、被ばく量の低減とカラーカメラが実現できます。

菅原:貴社のX線センサーで、どれくらい鮮明な画像が撮れますか?

小池:例えば、従来のX線検査機で区別ができなかった、チョコレートとキャラメル、模擬爆弾の判別が一目でできるほどになります(以下、画像参照)。

X線量で言えば、従来と同じ画質を実現するのであれば、1000分の1程度に抑えることができます。

菅原:画期的な技術ですね。これまで、世の中に出回る製品はなかったのでしょうか?

小池:ええ、ありませんでした。それは、CdTe(カドテル)の取り扱いが難しく、実用化ができなかったためです。弊社では、設立以前より、こうした検出や半導体材料の取扱い技術を高めてきました。それを、カメラや線量計などのデバイスに実装して製品化し、企業さまへ販売しているのです。

菅原:大手企業さまともお付き合いがありますよね。

小池:材料メーカーや電力会社様などに、放射線計測機を導入いただきました。自然界にもともと存在する放射線と、発電所で発生している放射線とを分けて正確に測る装置です。

似たところでは、原材料加工の業界でも検査器を活用いただいています。数百度という高温や霧が発生するような場所、油にまみれている場所などでの製造工程における品質検査ですね。シェイプやラインのずれがないかといったことを、過酷な環境下でも正確にチェックできるということで。

菅原:スケールの大きなお話ですね。ほかにも、生活関連の身近な例はありますか?

小池:じつは、今一番導入が進んでいるのが食品加工の分野です。例えば、コンビニに卸す総菜の異物検査ですね。また、医薬品の包装後検査など、品質に関わる検査にも活用されています。

菅原:多岐にわたる産業で、さまざまなソリューションを提供しているのですね。

小池:普段の生活で消費者や生活者の目に入ることは少ないですが、くらしの安心安全やインフラを支える技術ですね。

手つかずのマーケットを見つけた驚き

菅原:小池さんは、大学院在学中にANSeeNの設立に参画されました。もともと、起業願望があったのですか?

小池:いえ、全く。父は公務員でしたし。ただ、静岡大学で青木 徹教授と出会い、次世代X線技術の可能性に強く惹かれました。そのうち、この研究成果をもとに、大学発ベンチャーを作るという話になりまして。自身の人生として、起業を経験してみるのは面白そうだと思ったんです。

菅原:不安ではなく期待が大きかったと?

小池:そうですね。設立前、青木とともに製造業を中心に企業訪問をしました。そのとき、どの企業さんにも言われたんです。「撮りたいものが撮れるカメラがなくて困っている」と。それがとても衝撃的でした。

パソコンでも携帯でも、こんなに商品が溢れる世の中なのに、まだ作られていない製品もあるのかと。それならば、ぜひとも貢献したいと思ったんですよね。

菅原:設立当初はどのような活動から始まったのですか?

小池:2011年の東日本大震災をきっかけに、放射線計測器開発の依頼をいただきました。コンパクトで、誰が使っても正しい数値を測れる装置のニーズがあったのです。この計測器は、のちの製品開発における基礎の技術となりました。

菅原:そこから試行錯誤を繰り返してきたのですね。

小池:そもそも、CdTeのセンサーを知っている人自体が少ないので、お試しキットを作りました。貸し出して使ってもらったり、お客さま先でデモをしたり。その中で、ニーズを吸い上げて製品化していくという単品受注をしていましたね。

菅原:販売チャネルを開拓しながら、テストマーケティングもする感じですね。

小池:2017年あたりからメーカーとの協業が増え、量産を前提とした製品化が視野に入ってきました。歯科業界のCTやパノラマ用のセンサーだったり、半導体の基板を検査するカメラを開発してきました。

テストマーケティングの先、量産化フェーズを迎えて

菅原:設立8年目を迎え、今後はどのように展開していくのでしょうか?

小池:2020年をめどに「見られなかったものを写す」CdTeカメラの製品化を目指しています。より安価で使いやすい形にしていけたらと思います。搭載されるCdTeセンサーも、CCDやCMOSセンサーのように1つの“商品”として確立したいですね。

また、従来使われている10㎝×10㎝などの大きなサイズで、パネルセンサーの生産を実現する予定です。事前に周辺装置をご用意いただければ、その頃にはパネルセンサーを納められるように開発を進めています。

菅原:ターゲットとなるマーケットの規模はどれほどでしょうか?

小池:X線センサーで最も大きなマーケットは医療分野で、数千億円から1兆円ほどと言われています。じつは、それと同じくらいの規模で、次世代X線センサーの導入が必要になるのが自動車メーカーだと思っています。

菅原:EV化に伴うものですか?

小池:安全性を担保するための構造部品や、自動運転の細かい電子部品などの検査の需要があります。半導体の中の接続をチェックや、全数検査も必ず必要になってきます。

従来のセンサーでは、ぼやけて見えづらい。そんな中で、全数に合わせるくらいのスピードでもはっきり見えてラインにも組み込める。かつ、細かいデータも収集できるという、センサーを実現していきます。

菅原:売上げ規模は、どの程度を見込んでいますか?

小池:まずは、年間売上30憶円までスケールすることを目標に置いています。ターゲットとするX線装置の分野で、弊社の目指す製品の販売価格帯が250~300万です。それを、年間1,000台供給できる生産体制を作っていきます。

菅原:量産に向けての課題はありますか?

小池:生産の課題があります。同時にCdTeデバイス化プロセスなどもあるので、それら技術の生産委託をするためにも、まずは実現性を示すために年間100台までは自社で対応できるくらいの生産ラインが欲しいですね。

そうなると、私の仕事としてはファイナンスが重要ということになります。ただ、先ほど申し上げたように、販売先のニーズはすでに明確になっています。あとは、ユーザーが必要なサイズのセンサーの試作と、製品の量産ができるようになればということで、2017年にはリアルテックファンドより増資もいただきました。今後も、技術移転や増資など、状況に応じてファイナンスを強化していきたいと思っています。

インフラ、医療etc…近未来のライフスタイルを創造する

菅原:小池さんのお話を伺うと、貴社の技術には私たちの生活を変える可能性があるように思います。事業のゴールをお聞かせください。

小池:100年以上たっても変わらなかったX線の画質を向上することで、社会的に役立てばというのが根幹にありますので。とくに、浜松の産業の下支えになれれば嬉しく思います。

製造業において、X線検査は、基本的にコストとして見られています。それが、もっと低コストで簡単にできて、人手がどんどん不足していく中でも、品質管理のクオリティを維持できるような技術にしていきたいです。

菅原:前述の爆弾を判別する例に見て取れるように、人の命を救う技術でもありますね。

小池:社会的意義は大きいですよね。例えば、生存確率が90%のうちに、がんを超早期発見するといったことも可能だと思っています。また、人間ドックが誰でも気軽に受けられるようになる可能性もあります。医療分野への応用は、最も喜ばれ意義のある取り組みだと思います。

菅原:そこまで事業が到達したときの、会社としての在り方はいかがでしょう?

小池:プレーヤーがたくさんいる業界ではないので、協業することが多いだろうとは思っています。また、私の目指すのは、最短で次世代X線検査器が社会実装されることです。それであれば、会社としての在り方は多方向で考えておいて、状況と必要に合わせて形を変えていければと思っています。

編集部コメント|

私たちのくらしを根幹から変えていく可能性を秘めた、ANSeeNの次世代X線センサー。今後も、多岐にわたる産業において、活用事例が増えていくことでしょう。2020年の製品化に向けたX線カメラの開発にも、期待が高まります。今後の事業展開に注視したいと思います。