【中編】「みんなで取り組む、シン・やらまいか!」デザインシンキングワークショップ開催レポート

投稿者 | 2021-01-04

2020年11月27(金)・28日(土)に開催された、「みんなで取り組む、シン・やらまいか!」デザインシンキングワークショップ。エコシステムとしての浜松の今後を考えた2日間の様子を、3回にわたるレポートでお届けしています。

第2回では、ワークショップやデザインシンキングをより良く活用するためのレクチャーの様子をご紹介します。

前編はこちらから▶【前編】「みんなで取り組む、シン・やらまいか!」デザインシンキングワークショップ開催レポート

 

イノベーションを創出するデザインシンキング・ワークショップ

シリコンバレーの優位性や浜松市に課題などについて、参加者間で共通認識を持てました。ここからデザインシンキングを使ったワークショップに入ります。SAPジャパン トランスフォーメーションオフィスの尾崎 太朗氏が中心となり、イノベーションの源泉となる「シン・やらまいか!」を考えていきます。

まず、尾崎氏よりデザインシンキングに関するレクチャーがありました。

デザインシンキングの概要

「『シン・やらまいか』を考えていくにあたって、イノベーションを起こすためのマニュアルと言われる『デザインシンキング』の枠組みが重要になります。日本では、『デザイン思考』とも呼ばれ、すでにご存知の方もいらっしゃると思いますが、ここで一度、共通の見解を持ちたいと思います」(SAPジャパン、尾崎氏)

そもそもイノベーションとは何でしょうか?

「SAP社での定義は、『イノベーション=クリエイティビティ(創造力)×エクスキュージョン(実践力)』です。もう少し噛み砕くと、『課題の発見』と『課題の解決』の両軸があって初めてイノベーションになり得ると考えています」(SAPジャパン、尾崎氏)

イノベーションを構成する「課題の発見」において、デザインシンキングの手法は非常に有効であるとのこと。なぜなら、デザインシンキングにおける商品・サービスの創出過程は、ユーザーへの共感から始まるからです。デザインシンキングはその性格から、「人間中心のアプローチ」とも称されています。

デザインシンキングの成功に必要なマインドセット(心構え)とは?

続いて尾崎氏より、デザインシンキングを実行するための心構え「Yes And……(イエス・アンド)」が説明されました。これは、何か発案があったとき、「そのアイデアは良いですね。それならば」と、相手の考えを受け止めたうえで自分の意見を足していく対話の進め方・在り方をいいます。

もしも会話が相手の意見の否定から始まってしまっては、建設的な議論ができません。その会話や議論の場が、意見を言いづらい雰囲気にもなってしまいます。

「Yes And……のマインドセットが浸透していると、部門が縦割りだったとしても横で繋がることができます。(多様性に富んだ対話を期待して)今回、ファシリテーターを勤めるSAPの5名もさまざまな部門の混合チームです。

みなさんはこの2日間、心理的な安全性が完全に担保されています。何を言っていただいても構いませんし、聞いた人も『それはいいですね』と(まずはアイデアを尊重しましょう)。何か自分なりの意見があったら、そのアイデアの上に重ねていただけたらと思います」(SAPジャパン、尾崎氏)

デザインシンキングの成功例

WHO(世界保健機関)が南アフリカで手がけた啓発プロモーション「Hope Soap」があります。南アフリカのケープタウンにある貧民街では、感染症により毎年数千人もの子どもが亡くなっていました。

そんな中、日常的に石けんで手を洗う習慣を身につければ、子どもの命を奪ってしまうような感染症は防げることがわかっていました。しかしながら、ただ石けんを渡しただけでは使ってもらえません。

新たな解決策を見出すため、デザインシンキングが用いられました。”子ども”を中心に考えられたソリューションは、「おもちゃの入った石けん」に。子どもたちは、中のおもちゃほしさに、手だけでなく体まで積極的に洗うようになったそうです。その結果、感染症は約70%も減りました。

「このように、中心に据える人を決め、その人に共感していくことによって課題が見つかりビジネスソリューションが生まれます」(SAPジャパン、尾崎氏)

 

デザインシンキングの効果は、株価にも現れています。米国の2大株価指数のひとつであるS&P500を見ると、デザインシンキングを経営に取り入れた企業の株価は、そうでない企業の2倍以上になりました(※)

(※)参照:2016年 The Design Management Institute

デザインシンキングの重要項目と進め方

尾崎氏によると、成功体験にもとづいてSAPが内製化してきたデザインシンキングのコツがあるそうです。下記の3つを好条件に整えることが重要だといいます。

  • People(人の多様性。さまざまな専門を持つ人々によるグループ形成)
  • Process(アイデアの発散と収束、反復型デザインアプローチ)
  • Place(創造性とコラボレーションを促進する環境)

People:人の多様性。さまざまな専門を持つ人々によるグループ形成

まず、多様な人が集まることが重要です。今回の参加者もそれぞれに異なる専門領域を持っていますが、「デザインシンキング」というトピックでつながり集まりました。

Process:アイデアの発散と収束、反復型デザインアプローチ

「(アイデアを)発散して収束する」、これをひたすら繰り返していきます。

Place:創造性とコラボレーションを促進する環境

イノベーティブな人が同じ場所に集まって、同じ方向を向き、同じステップや同じスピード感で仕事を進めることが大事です(※)

(※)引用:SiliconValleyWorker|ドイツ企業SAPに学ぶ #後天的なイノベーションの起こし方

 

現在、デザインシンキングの進め方は確立されており、次の5つのステップになります。

  • Enpathize(共感)
  • Define(定義)
  • Ideate(発想)
  • Prototype(試作・試供)
  • Test(テスト)

デザインシンキングは、ある特定の人に共感するところから始まります(Enpathize)。次に、ザックリしていた課題をその人の目線で捉えて定義しなおします(Define)。これだと思っていた課題が、当事者に意見を聞いてみるとじつは違ったということは往々にしてあるからです。

そこから、課題を解決するアイデアを出していきます(Ideate)。数多く出たアイデアは、完璧でなくて良いので形にします(Prototype)。そして、じっさいにユーザーに試してもらいます(Test)。Testでアイデアの成否が分かれば良いので、Prototypeは、4コマ漫画や寸劇などで表現することもあります。

今回のワークショップでは、「Define(定義)」のフェーズまでを1日目に終え、2日目には「Prototype(試作・試供)」のフェーズまで完了していきます。

デザインシンキング・ワークショップの実践

今回、グローバル拠点都市を具現化していくにあたって重要と考えられる、以下5つのステークホルダー領域がピックアップされました。

  • 県内大企業
  • 県内中堅企業
  • 県内学生
  • 県内スタートアップ
  • 県外大企業

ここから先は全5チームに分かれ、ステークホルダーそれぞれの課題やソリューションを考えていきます。

「場合によっては、コミュニティが必要かもしれませんし、人材の流動が必要かもしれません。そういったアイデアをさまざまな角度から考えて形にしていきましょう」(SAPジャパン、尾崎氏)

 

今回のワークショップでは、オンラインのホワイトボードツールのMural(ミューラル)を使用しました。テキストや図を挿入できるだけでなく、ワークシートを作ったり付箋を自由に貼ったりできます。Muralの画面はURLで参加者に共有され、共同で編集できるので、オンライン上でも発案や議論が活発になります。

ペルソナ策定で、向き合うべきリアルな1人を決める

アイスブレイクで打ち解けたあと、割り当てられたステークホルダーの中でも共感すべきペルソナ(特定の人物)を見立てていきました。よりリアルなペルソナ像にするために、ペルソナに関するアイデアを短時間で広げ、イメージに落とし込んでしていきます。

あるチームは、県内大企業に勤める30代の男性をペルソナにしようと決めました。そこから、そのペルソナが具体的にどんな人なのかを深掘りします。ペルソナは、普段、何を感じたり考えたりいるでしょうか?何を見て、聞いているでしょうか?具体的な名前も決めて、Muralに書き込んでいきます。

チームメンバーがそれぞれに考えたイメージを集約して、ペルソナを作成していきます。キーワードを書き出しても良いですし、セリフを思い浮かべても良いそうです。それぞれ、自由な発想でペルソナを作り上げていきました。

理想の未来までの障壁を明らかにする「Enpathize(共感)」のワーク

ペルソナが策定できたあと、「Enpathize(共感)」の作業に入りました。まずは、ペルソナの「困っているコト/モノ」と「必要としているコト・モノ」を考え、ペルソナへの共感を深めます。

続く「Future Current Barreier」のワークでは、ペルソナが理想とする未来と現状のギャップを考えました。「Future(未来)」の欄には、「シン・やらまいか!」の理想の姿を書きます。ペルソナが、将来どのような状況になっていれば良いかにも考えを巡らせました。

「Current(現在)」の欄には、Futureの理想と比較した現状を書き出します。そして、現状から理想に近づくにあたり、壁になっていることや壁になりそうなことを「Barrier(障壁)」の欄にアウトプットします。

 

「(未来には)『やらまいか!』と言って、会社の中が活気づいていると良いですね」「従業員が喜んで働いてるという将来もあるかな」など、「Yes And……」のマインドも手伝い、前向きな意見がチーム内に溢れました。

ペルソナにとっての課題を再定義する「Define(定義)」のワーク

共感のワークで設定したペルソナの課題を、各自でPoV(Point of View:着眼点)に落とし込みます。次の2つの質問を通じて、ペルソナにとっての根源的なニーズ(インサイト)や根深い課題を見つけ出しました。

  • ペルソナが本当にしたいことは何か?
  • ペルソナが自覚していない、本当に解決しなければいけないことは何か?

書き出したアイデアを清書して、PoVを整理していきます。メンバーの数だけ揃ったPoVをチームで話し合い、ベースとなるPoVを1つに決定しました。ベースのPoVに先に出されたPoVの長所やメリットを付け足し、チームとしてのPoVをまとめ上げたら「Define(定義)」は完了です。

できあがったPoVを5チームそれぞれに発表して、この日のワークショップは終わりました。以下、5チームの発表内容です。

チームA|ペルソナ:県内大企業に勤務する30代男性

チームAが設定したペルソナは、「鈴木 虎楠(とらくす)」さん。新規事業部に異動してきたものの、自分で考えた企画がなかなか通らず悩んでいました。社内に目が向いてしまい、顧客視点が不足していいたと感じています。

しかしながら、社内に閉じこもっていては新たな視点や気付きが得られません。そこで、社内外での仲間づくりを急務と捉えています。多様な価値観の中から自社に求められていることを見出したい。チームAでは、そんなペルソナ・スズキさんのためのソリューションを考えます。

チームB|ペルソナ:県内中堅企業の2代目社長、45歳男性

2代目社長として会社を引っ張ってきた「鈴木 太郎」さんがチームBのペルソナです。製造業のカルチャーの中で育ってきたような人とのこと。新型コロナウイルスの影響も含め社会が大きく変わる中、スピード感をもってさまざまな課題に対処しなければなりません。

イノベーティブなことに挑戦し、ゆくゆくは事業継続が必須となります。今後どのような挑戦をすべきか、会社の方向性を決定する必要があります。しかし、人材面と技術面において何から手を付けて良いのかがわかりません。チームBでは、他社とのネットワークを強化し、外部の知見を活かして課題をクリアできるような解決策を考えます。

チームC|ペルソナ:県内の大学に通う学生

チームCのペルソナ、「タクミ君」は、普段は飲食店でアルバイトをしている大学生です。意識高くありたいと思いますが、自分に自信がありません。自分を成長させてくれるチャレンジをしたいと考えています。しかし、主な情報源であるSNSには自分の数段上をいく人ばかりが目に入ります。今の自分と比べてしまい、一歩が踏み出せませんでした。

小さなことでもチャレンジすることで、少しずつ自信を持てるようになるはずだと、チームCは考えます。そこで、参加ハードルの低いコミュニティをはじめ、タクミ君のチャレンジを応援するソリューションを考えることにしました。

チームD|ペルソナ:生まれも育ちも浜松のスタートアップに勤める20代後半の男性

チームDでは、浜松に住んで地元のスタートアップ企業に勤める20代後半の「池野さん」をペルソナに設定しました。池野さんは、光に関する技術を持っており、いずれは大好きな浜松で起業したいと考えています。

ただ、遠距離恋愛中の彼女がおり、起業への一歩を踏み出せない状態でした。どうやら、浜松市で起業して良いのかという葛藤を抱えているようです。起業するのに必要な情報や人脈も、自分からは探しにいけていません。チームDでは、そんな池野さんの現状を打開し、企業のステップを踏み出せるような解決策を考えます。

チームE|ペルソナ:東京のIT企業に勤める40歳男性

「東京 太郎」さんは、東京の大手IT企業に勤める年収1,000万の男性です。キャリアのこれからとワークライフバランスの実現に難しさを感じています。自由に働ける環境の中で達成感のある働き方を目指したいが、きっかけがつかめません。キャリアの変更が、ゼロサムの人生判断になってしまってはリスクが高すぎ危険です。

ペルソナが一歩踏み出すためには、移住の成功例や体験談が不足しているのでしょう。そこで、チームEは、「東京 太郎」さんが新たな生活や仕事をトライアルできるようなソリューションを考えます。

 

デザインシンキング・ワークショップ1日目を終えて

「『Define(定義)』までが、アイデアが行ったり来たりして難しい部分です。後半に行くにつれて、考えがまとまらずに苦戦している場面も見えました。ほかのチームのPoVがリアルに確立されているように感じ、自チームのPoVを発表するのが心配になったと思います。安心してください、最初はあいまいな状態で進むものです。

プロトタイプを作ってみると、意外とユーザーニーズに合致することはよくあります。今日のプロセスを繰り返していくことで、顧客の課題に寄り添ったソリューションになっていきます。世界共通で、どのチームも必ずそうしたプロセスを辿ってくのです。明日はソリューションを考えるフェーズなので、もっと進めやすくなりますよ」(SAPジャパン、尾崎氏)

ワークショップ1日目を終え、参加者からは次のような感想が聞かれました。

  • アイデアを考えるにあたり、実際に手を動かすのは良いと実感しました。
  • みなさんの意見を聞いて考えを揺り戻すこともありながら、アイデアがブラッシュアップできるのは良いと思いました。
  • 頭の中でモヤモヤしていたことが、皆さんのお陰で言語化されるのを感じました。

「オンライン会議ツール上にチーム分けされた部屋を拝見していて、オープンでフラットな関係性でワークが進んでいると感じました。明日もよろしくお願いします」(杉浦氏)

 

→【後編】「みんなで取り組む、シン・やらまいか!」デザインシンキングワークショップ開催レポートは、近日公開予定です。