【前編】「みんなで取り組む、シン・やらまいか!」デザインシンキングワークショップ開催レポート



2020年11月27(金)・28日(土)、株式会社東海理化(本社:愛知県丹羽郡、以下、東海理化)、The Garage for Startups(以下、The Garage、運営会社:We will accounting associates株式会社、本社:浜松市中区、以下、We Will AA)、ならびにSAPジャパン株式会社(本社:東京都千代田区、、以下、SAPジャパン)は、エコシステムとしての浜松の今後を考えるデザインシンキング・ワークショップを3社共同で開催しました。

2020年7月、浜松市を含む中部地域は、内閣府が選定する「スタートアップ・エコシステム グローバル拠点都市(以下、グローバル拠点都市)」に採択されました。今回のワークショップは、そのビジョン策定に向けた第一歩として開催するものです。

スズキやヤマハといった大企業の成長を支えたといわれる浜松特有の「やらまいか精神(チャレンジ気質)」に着目。産業の発展を加速するために、浜松に求められる機能・価値の源泉を「シン・やらまいか!」としてアップデートしていきます。

本記事では3回にわたり、イベント当日の様子をレポートします。

イノベーションを加速する「デザインシンキング」とは?


デザインシンキング(デザイン思考)とは、イノベーションを実現するためのプロセスです。ユーザーの課題に寄り添い共感することで、既存の製品やサービスになかった新たなソリューションを生み出します。

単に表面化した課題を解決するのではなく、ユーザーさえも気付かなかった本質的なニーズを発掘するのに有効。テストを繰り返しながらソリューションの精度を上げる、創造的なアプローチとなっています。

デザインシンキングは、「イノベーションを実現するためのマニュアル」とも称されます。スタートアップや大手企業における新規事業の開発現場で活用されている考え方と実践方法の体系です。

下記のホームページリンクより、SAPが提唱するデザインシンキングの一端を学べます。
参考1.デザインシンキングが導くデジタル変革―SAP自身が実証したデザイン思考アプローチのインパクト
参考2.本当にビジネスの役に立つSAP流デザインシンキングの勘所

「シン・やらまいか!」ワークショップのスケジュール

【1日目】
9:00~9:15 主宰あいさつ
9:15~10:00 デザインシンキングの概要説明
10:00~13:00 デザインシンキング・ワークショップ

【2日目】
15:00~15:15 前日の振り返りなど
16:00~17:15 アイデア創出
17:20~18:00 プロトタイピング・発表
18:00~18:10 まとめ

本イベントには、大企業および中堅企業の社員、スタートアップの代表、浜松市職員から学生まで、全21社24名が参加しました。

この2日間を通じて、浜松市やステークホルダーの抱える課題を深掘し解決策を生み出すプロセスを実行します。昨今のコロナウイルス感染拡大の状況を踏まえ、本ワークショップはITツールを用いた完全オンライン方式での実施となりました。

1日目はまず、エコシステムとしての浜松市の現状やデザインシンキングの要点に関するプレゼンテーションから始まりました。

「シン・やらまいか!」開催の経緯|The Garage(We will AA)代表 杉浦 直樹 氏


本ワークショップの開催経緯について、The Garageを運営するWe Will AA代表の杉浦 直樹氏より発表がありました。

「今回の取り組みは、The GarageとInspired.Lab(※)に入居していらっしゃる東海理化の方が、SAPジャパンご担当者を繋いでくださったことで実現しました。そこにあるのは、『この地域の課題を一緒に解決していきたい』という共通の思いだと思っています。

大企業やスタートアップからの参加者のほかに、中堅・中小企業や学生、行政のみなさんも加わってもらいました。今回、参加者が組織の垣根を越えて融合しながら、新しいことにチャレンジしていけたら嬉しいです」

Inspired.Labについて


三菱地所株式会社とSAPジャパン株式会社によるコラボラティブスペース。社会課題を解決する新規ビジネスの創出を目的としたオープンなイノベーション・コミュニティとなっている。

また、浜松市の現状については、以下のような所感を共有しました。

  1. 浜松のスタートアップ・エコシステムは、5年ほど前から醸成してきた
  2. ただし、エコシステムに足りない”ピース”がある感覚

「本日のテーマは、『シン・やらまいか』ということで、この地域のやらまいか精神をバージョンアップしていけたらと思っています」(杉浦氏)

The Garage for Startupsについて


浜松で中小企業・スタートアップのバックオフィス支援を手掛けるWe地域のリーダーが集まるオープンイノベーション拠点。組織の垣根を超えて新しいことにチャレンジできる場所となっている。
所在地:静岡県浜松市中区高林1-8-43

「シン・やらまいか!」主催あいさつ|東海理化 執行役員 佐藤 雅彦 氏


また、本ワークショップ開催の主導役となった東海理化より、執行役員である佐藤 雅彦氏があいさつに登壇しました。

「コロナ禍の厳しい状況ではありますが、(ITを駆使してオンライン上に集まれたことを見ても)活発な議論ができるのではないかと期待しています。

いろんな会社や団体、学生の方まで参加いただいていますが、オープンな立場でみなさん忌憚のないご意見を。それから、自分の想いを表に出していただくことによって、規模の大小や歴史の浅い/深い、あるいは、どこの企業であるといったことはひとつ置いておき、浜松の活性化につながるような大きな方向性が出せれば良いのではないかと思います。

新しいビジネスの発見や社会課題の解決といったことに取り組んでいこうと思いますので、我々もスタートアップの一員になったような気持ちで、ぜひ議論に参加させていただきたいと思います」

コロナ禍におけるシリコンバレーとデザインシンキングの有用性|株式会社WiL パートナー 小松原 誠 氏


続いて、株式会社WiL(本社:東京都虎ノ門、以下:WiL)のパートナ―小松原氏より、スタートアップエコシステムの中心地であるシリコンバレーの優位性やデザインシンキングの概要に関する説明がありました。

株式会社WiL|米シリコンバレーと東京虎ノ門に拠点を置くベンチャーキャピタル(投資ファンド)。事業領域は3つあり、①インベストメント(ベンチャー投資)および、②ビジネスクリエーション(新規事業の創生)、③エンパワーメント(人材育成)を手がける。経済産業省が主催するイノベーター育成プログラム「始動」を開始から6年連続で運営。シリコンバレーにおけるコネクションを活かし、日本の大企業と日米のスタートアップとの架け橋となっている。

主な投資先:メルカリ、ラクスル、Mural など
主な出資者:(県内企業では)スズキ、静岡新聞、静岡銀行、鈴与 など

「日本から世界に通用する存在を育てたいという気持ちで(人材育成まで含めたスタートアップ支援事業を)やっています。そうした想いに共感いただいたたくさんの企業が、WiLのファンドに出資をしてくださっています。

今日は、コロナの影響を受けて世界がどう変わっていくのかを、ベンチャーキャピタルの視点でお話したいと思います」(小松原氏)

コロナ禍におけるシリコンバレーとデザインシンキングの有用性


世界屈指のスタートアップを生み続ける米シリコンバレー。そこには、エコシステムと呼ばれるスタートアップを生み育てる仕組みがありました。シリコンバレーのエコシステムにヒントを得、浜松市もスタートアップの育成構想を打ち立てています。しかしながら、世界に通用するようなスタートアップ醸成都市への道は、遠い道のりです。

浜松がスタートアップ育成を加速し成功させるには、何が必要なのでしょうか。参加者の意識を合わせるべく、小松原氏よりシリコンバレーの概要説明がありました。

「シリコンバレーは、アメリカの西海岸、カリフォルニアという州の中の本当に小さな1地域になります。こんなに小さなエリアから、かつてはHPやインテルが、近年ではGoogleやAppleなどが誕生しました。サンフランシスコまで入れると、AirbnbやUberなど、たくさんのスタートアップが生まれています。

(街全体/ステークホルダーとともにベンチャーが)一緒に大きく成長して、世界経済をけん引するまでの存在になっているのが、シリコンバレーが特殊な地域たる由縁です」

シリコンバレーでスタートアップが急成長できる背景には、大きく分けて以下3つの要因があるとのこと。

  1. 人材面:域内の有名大学から優秀な人材がスタートアップに流れる(スタンフォード、UCバークレー など)
  2. 資金面:VC・ファンドマネーが集約し、年間13~14兆円もの投資に(セコイア・キャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツ など)
  3. 市場との接点:街全体が「イノベーションの実験場」となっている

「人材やお金が集まるのはもちろんですが、実証実験の場として街全体が機能しているのが大きな要因です。自動運転の車が街中を走っていたり、ロボットが警備員の代わりをしていたりといった光景を当たり前のように目にします。

そうした(街全体でスタートアップを育成する機能がある)結果、有名なIT企業が生まれてきたというのが、シリコンバレーの簡単な概要です」(小松原氏)

コロナ禍におけるシリコンバレー~ピンチをチャンスに~


しかし、新型コロナウイルスのまん延によって、シリコンバレーの様子は一変しました。オフィスは閉鎖され、仕事はリモートが基本になりました。経済格差が広がり、精神を病む人や自殺する人が増加、治安も悪化しています。企業はどのようにこのピンチに立ち向かえば良いでしょうか。小松原氏は、次のように語りました。

「大事なのは、この状況をどのように理解すれば良いのかです。じつは、『ピンチはチャンス』でもあります。

例えば、コロナ禍で、デジタル化できる人と難しい人が出てきました。こうした二極化が進む中で、行政もどのようなフォローができるのかと考えを巡らせています。そうした中にあって、IT系のスタートアップが活躍していく世界が予想されます。

不況のときにイノベーションが起きる流れは、歴史をたどってみても明らかです。古くはスペイン風邪(1918年-1920年)が流行した直後に、イノベーションが起きました。冷蔵庫や洗濯機が発明され、ダウ平均株価は約5倍に跳ね上がったのです。

近年では、2000年にITバブルが崩壊し、2008年にはリーマンショックが起きました。そうした危機の直後は局所的に投資額が落ち込んだものの、実際にはこの不況の中でこそAirbnbをはじめとする衝撃的なスタートアップが誕生していました」

「つまり、危機から生まれるイノベーションがあるということです。危機のときは、課題が顕在化されるからです。また、危機をチャンスに変えていけるスタートアップは強いと思います。より堅実で世の中になくてはならなかったスタートアップが残るでしょう。

今回、このコロナ危機から私たちは何を学べるでしょうか?課題が大きくなるときこそチャンスと捉えて、私たちも伴走支援をしていきたいと思います」(小松原氏)

とはいえ現代は、VUCA(※ブーカ)といわれるように、変化が速く不確実性の高い時代です。外部要因もユーザーのニーズも急速に変わっていく中、どうすれば世の中になくてはならない価値・商材を生み出せるでしょうか。そのヒントのひとつに、デザインシンキングという方法論があります。

「今解くべき課題を発見し、新しいアイデアを生み出していく方法論がデザインシンキングです。シリコンバレーでも当たり前のように使われてきました。

本日も、この方法論を採っていただき、コロナ危機だからこそ解決すべき課題を明らかにし、みなさんでソリューションを楽しく考えてほしいと思います」(小松原氏)

(※)VUCA(ブーカ)|Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)という4つのキーワードの頭文字から取った言葉で、現代の経営環境や個人のキャリアを取り巻く状況を表現するキーワードとして使われています。引用:bizhint.jp

浜松市の現状とこれからのビジョン|浜松市 産業部副参事 産業振興課ベンチャー支援担当 瀧下 且元 氏


愛知県や名古屋市と合わせ、7月に「スタートアップ・エコシステム グローバル拠点都市」に採択された浜松市。国内に20カ所ある政令指定都市のひとつであり、自動車産業の集積地でもあります。スタートアップをとりまく環境整備

浜松市の概要

人口:約81万人(政令指定都市)
面積:約1,558k㎡(全国市町村の中で第2位の面積)
産業:第二次産業(製造業の構成比率が約34%ともっとも高い)
風土:「やらまいか精神」

「やらまいか精神」とは、「やってみよう」「やってやろうじゃないか」という意味で浜松特有の言葉です。新しいことに勇敢にチャレンジする浜松地域の精神を表しています。そうした気質も手伝い、浜松の地からヤマハやホンダ、カワイ、スズキといったグローバル企業が生まれ発展してきました。

参照:
浜松の産業-浜松市
市政情報誌「もっとはままつずっとはままつVo.7

スタートアップのエコシステムとしての課題感


世界に名だたる大手メーカーもかつてはベンチャーとしてこの地に生まれ、ゼロから成長してきました。裾野の広い産業構造を形成しては、浜松市の経済を潤してきました。しかし、それら大手企業に続く新たなベンチャーが生まれていないことが課題です。長期にわたる有力なスタートアップの不在は、各種の経済指標にも負の影響として現れています。

  1. 開業率を上回る廃業率の高さ
  2. リーマンショック後における製造業出荷額の落ち込み
  3. 新たなスタートアップ企業が生まれていない危機感

このような傾向にあって、浜松市は、スタートアップや創業支援に力を入れてきました。さまざまなプログラムを通じて、全方位からスタートアップの支援や誘致を実施。浜松市がスタートアップ支援を始めてから約5年。その地道な活動が、近年で結実しはじめています。

今年7月には、「グローバル拠点都市」に選ばれました。これより愛知県や名古屋市と連携し、世界に伍するスタートアップの育成を図ります。

「浜松と名古屋の強みは、製造業の集積地であることです。この地域をモノづくりのメッカに。大学を中心とした教育支援も行っていきたいと思います。グローバルな視点でスタートアップの支援事業を進め、国力の底上げをしていけたらと考えています。

(浜松で創業され成長してきた)世界に名だたる大企業は、かつて(今ほどの産業基盤が)何も無いところからビルディングされました。そのころの挑戦を支えてきた『やらまいか精神』は今後どのようにあるべきかを、みなさんで議論いただけるとありがたいです」(瀧下氏)

つづきはこちら▶【中編】「みんなで取り組む、シン・やらまいか!」デザインシンキングワークショップ開催レポート