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ダイバーシティに富んだ社会づくりを浜松から|一般社団法人グローバル人財サポート浜松 代表理事 堀 永乃 氏にインタビュー


深刻な人手不足への対応として改正出入国管理法が可決され、2019年以降の5年間で最大35万人の外国人労働者を受け入れることになった日本。外国人人材の登用を新たに実施する企業も増えていくことが考えられます。
浜松市では、2000年台初頭より、日本語教育を中心とする在住外国人へのさまざまなサポートが行われてきました。その一端を担ってきたのが、一般社団法人グローバル人財サポート浜松の堀 永乃 代表理事。多文化共生や人々の多様性を活かせる社会づくりについて、お話を伺いました。

堀 永乃 氏プロフィール|

2001年より、浜松国際交流協会で日本語教育や交流事業などの企画と運営を行う。2010年、チーフコーディネーターとして浜松市外国人学習支援センターの開設に参画。外国人就労の課題に直面し、2011年にグローバル人財サポート浜松を設立。専門は、外国人施策と多文化共生、日本語教育。文化庁地域日本語教育推進アドバイザー。一般財団法人自治体国際化協会地域国際化推進アドバイザー。著書『やさしい日本語とイラストでわかる介護の仕事』日本医療企画(2015年)。2018年度国際交流基金地球市民賞受賞。

目次

日系1世の年配者に「浜松にいるブラジルの人を頼む」と託されて


菅原:もともと大手企業で日本語教師を務めていた堀さんが、独立に至った経緯を教えてください。
堀:それには、2ステップありまして。まず、2001年に企業を退職して、浜松国際交流協会(HICE:ハイス)の日本語コーディネーターに就任しました。HICEとは、市民レベルでの国際交流と多文化共生を推進する外郭団体です。
菅原:その就任にはどのような背景があったのですか?
堀:当時、浜松市は、外国人集住都市会議の発足も目指していて、市として日本語教育をしっかりしなければならないと考えていたんです。私の企業内教室の評判が届いたそうで、HICEへの就任要請をいただきました。
市長からのミッションは、「日本語教育といえば、浜松」「外国人が暮らしやすい街、浜松」にしてれくれというもの。一心にそれを目指して、日本語教室のマネジメントや日本語教師の育成に大忙しの日々でした。
菅原:第2の転機は、どこで起きたのでしょうか?
堀:2008年ですね。4月から6月にかけて、ブラジルを訪れました。サンパウロ市と姉妹都市である浜松市を代表して、日系コミュニティや人的交流の推進などの実態を視察にいくという命を受けて。そこで、浜松出身の日系1世の方にお会いしました。
その方は、当時89歳。戦時中や異国での暮らしは、大いに苦労されたと思います。それでも、「今、生きていられるのは、ブラジルの方に助けていただいたお陰」と、仰るんです。私の手を握り、「浜松にいるブラジルの人を頼みますね」って。
菅原:感慨深いお話ですね。
堀:それが、私が日本に帰国した日にその方が亡くなられて。もう、遺言を託されたんだと思ったんですよね。今まで以上に、浜松に暮らすブラジルの方たちの支援を頑張ろうと覚悟しました。その矢先に、リーマンショックが起きたんです。
菅原:製造業を中心に外国人労働者の多い浜松は、大混乱だったと聞いたことがあります。
堀:HICEが開所する9時前から、100人以上のブラジル人が並んでいるんです。みんな、一挙に職を失って、家族が離散してしまったとか、お父さんが自殺してしまったとか。そんな切ない話を、たくさん聞きました。
そのときは、とにかく悔しかったです。車の部品もコンビニのお弁当も、外国人の方に全部作ってもらっているのに、労働力として使われる一方なのかと。彼らが自立するためには「外国人の方に、手に職をつけてもらうべき」と、思いましたね。
そこで、2010年度の外国人学習支援センターの立ち上げを完遂した後に、2011年にグローバル人財サポートを設立しました。

外国人の就職のために、専門の日本語教育を


菅原:最初は、何から始めたんですか?
堀:2009年に文化庁の委託事業としてHICEで始めた、介護の仕事向けの日本語教室を独自に拡充しました。ブラジルやペルーの女性って、とても慈悲深いんです。年配者を大切にしてくれるので、介護の人材に向いていると考えました。すぐに録音用のマイクをもって、介護施設で丸2日かけて言語の調査をしました。
菅原:仕事上でどんな言葉が使われているか、習得に何が必要かといったことを調べたのですね。
堀:はい、この現場を調査して分析するという積み重ねが自信になりましたね。現在も、外国人の介護人材の育成と、彼らが就労後にソフトランディングできるためのサポートが、幣団体のメイン事業になっています。
外国人を受け入れたいと、多くの介護施設が思っていますが、何をどうしていいかが分からないと。各施設にとってベストな在り方を探すという事業を、行政と一丸となってやってきたんですよね。
菅原:行政とともに解決していくという姿勢は、どのような考えからきているのでしょうか?
堀:幣団体の理念である「人は地域の財産」です。違いを持ったさまざまな人たちが、お互いの多様性を活かして活躍できる社会の構築を目指しています。そこに暮らす人たち自身が活躍して、地域を担っていくことが大切です。そのためには、あらゆるステークホルダーが連携していく必要があると思うのです。ですから、事業を興すときは必ず、行政の担当窓口に伝えて連携・協働をお願いしています。
菅原:ほかにどのような事業を展開していますか?
堀:浜松市内の大学生を対象とした、就労前のキャリア教育ですね。卒業後に即戦力として地域に貢献できるように、社会活動を通じたキャリア形成を行うプロジェクトを展開しています。
就職活動にも「この街の未来をどうしたいか」という気持ちで臨んでもらえるように。また、18歳から選挙権を与えられるならばなおさら、自分で地域の未来を描く力を育てたかったんです。
菅原:画期的な取り組みですね。
堀:浜松学生ボランティアネットワークを中心に、さまざまな大学生による社会貢献活動を支援しています。外国にルーツのある子どもたちを対象に、公立小学校への就学前後で教育支援を行うサークル「WISH」や、フィリピンへのメロディオン(※)の寄贈を通してフィリピンと日本を音楽交流で繋ぐ「HANDs」など。行政や企業のご協力をいただきながら支援しています。
(※)株式会社鈴木楽器製作所にて製造、販売されている鍵盤ハーモニカ
菅原:外国人を受け入れる企業側や、ともに暮らす市民に対する意識づけも大切ですよね。大学生のモチベーションアップも必要かもしれません。
堀:はい、講演活動も精力的に行っています。市民ボランティア養成講座、大学生を対象とした地域創造に関する講座、自治体や企業の職員研修などに講師も派遣しています。
菅原:ずばり、事業を一言で表すと何でしょうか?
堀:「人財教育」ですね。きちんとした働き手になって、社会に貢献できる“人”を作ること。

多文化共生エリアからダイバーシティ先進都市を目指して

▲多文化共生に寄与する社会活動に励む大学生のみなさんと、韓国(安山・水原)で行われた研修風景より

菅原:行政や企業を中心に、近年では、どのような相談が寄せられていますか?
堀:「外国人を受け入れたいが、どうしたら良いか」ということですね。組織や社会の中で「多文化共生を実現したい」という声が増えています。
私が思うに、「多文化共生」は「お互いがちょうど良い距離感で、お互いを認め合い尊重して、お互いに過ごしやすく生きる」ということです。良い距離感が大切ですよ。誰でも、なりたい自分があり、こう生きたいというものを持っています。
菅原:その上で、どのような社会であるべきですか?
堀:前提にあるのは、「お互いがこの街に暮らしていて、持ちつ持たれつである」という意識ですよね。そのためには、「この街をどうしていきたいか」という視点で、ダイバーシティ(多様性)を活かせる社会であるべきと考えています。
菅原:先の取り組みに代表されるように、浜松市は、多文化共生が進んでいるように思います。
堀:今は“多文化共生エリア”で止まっています。次のステージとして、ダイバーシティの方向にもっと展開しないといけないと思います。性別や年齢差、文化など違いがあることを前提として、「あなたの個性や能力を、どう社会に活かせますか?」と、市民一人ひとりが考えられるようにならなければと。
菅原:そうなったときに、街も人も大きく発展しそうです。
堀:例えば、ベトナム人の留学生が、浜松の大学で一生懸命マーケティングを勉強したとして。学んだことをそのまま浜松に活かしてくれたら、日本企業と一緒にベトナムへ商品を売り込めますよね。
菅原:貴団体として、今後はどのように発展していきますか?
堀:ダイバーシティの考え方を、どう企業利益にしていくかという提案をしていきたいと思っています。例えば、職場に外国人が加わることが、どうメリットになるかということ。そのノウハウをもとに育成した人材を各企業に派遣していきます。
それから、介護以外の業界にも展開したいんです。全国からお声がけもいただきますが、一番貢献したいのは浜松の企業さまですね。
菅原:キャリア教育支援の方では、どのような計画がありますか?
堀:大学とのタイアップを深めていきたいですね。とくに、熱い先生がいてくれると学生に熱が伝わりやすいので。そのために、ブラジルやフィリピンなど、現地の大学と提携も結んできました。
菅原:さいごに、堀さんの考える未来の浜松の在り方を教えてください。
堀:グローバリゼーションの流れにおいて、日本は、世界での立ち位置を考えなければならない。その中で、浜松は、“世界で”選ばれる都市を目指していくべきだと思っています。国際競争が激しくなる中で、市民レベルで「この街をどうしていくか」という課題に本気で挑まなければならないですね。

編集部コメント

外国人労働者の雇用のスムーズな拡大をサポートし、さらなる社会の発展に寄与する一般社団法人グローバル人財サポートの事業。今後の活躍に期待が高まります。

ライター|菅原 岬

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